2022年 9月15日 「1.2 モデル は模型・実例である」 を読む >> 目次に もどる


 モデル とか モデリング という語が事業分析・データ 設計の領域で 多々 使われてますが、それらを扱った書物を読んでみて私が驚愕したのは、それらの書物の多くが モデル を定義しないで──暗黙の周知のこととして──記述されているという点でした (こういう現象は、entity という語の使用にも観られます)。そこで、本書では、入門者向けに モデル として身近な例をいくつか挙げて説明して、改めて モデル を定義しています。本書でいう モデル とは次の定義です──

   モデルとは、「現実(事実あるいは現実的事態)」を写像した形式的構造である。

 この定義を、もっと正確にいえば、次の 2つの要件を満たした モノ を モデル と云います──

  (1) 無矛盾な構造 (導出的な真を満たしている妥当な構造)

  (2) 真とされる値 (事実的な真をみたしている値)

 (1) を L-真と云い、(2) を F-真と云います。数学では、「...の条件を満たす」 ということが 「...の モデル である」 ということなので、事業構造を コンピュータ に実装するための モデル は、これら 2つの条件を満たしていなければならない。

 本書は、数学基礎論の基礎技術を使って モデル 作成技術を説明しています。そして、その モデル 作成技術に対して、アンチ から次のような反論 (?)──というよりも、言い掛かりかな (笑)──が出ることを私は本書の原稿を執筆していて事前に予想していました (笑)──

  (1) 数学を学校卒業後に学習しなかった人たちからの反論
     ──事業活動は数学では割り切れるものではない。

  (2) 数学をそうとうに学習しているが経営学・商学を学んでいない人たちからの反論
     ──数学を もっと学習しなさい。

 先ず、(1) については、本書では、事業活動そのものの設計を 一切 目的にしてはいない、本書が目的としているのは 「事業活動を写像した形式的構造」 であって、事業そのものとその モデル を混同しないでください。(2) については、本節で述べた写像 (特に全射) の記述が厳正でないので、そう言いたいのでしょう──私は数学者ではない、私が数学基礎論を学習した理由は、数学基礎論のなかで事業分析・データ 設計に使えそうな技術を流用したかったからであって、数学技術の厳正な定義を本書のような入門書で述べるつもりは毛頭なかった。だから、全射の 「現象的」 帰結だけを述べたのであって、私が全射をどのように数学的に分かっているかという点は、もしお望みであれば、拙著 「論理 データベース 論考」 96ページ・97ページ をご覧いただければ幸いです。そして、これらの記述が本書のような入門書に適しているかどうかを判断してください。入門書では、全射・単射の厳正な定義を綴ることに比べたら、それらの現象的帰結を述べたほうが入門者にはわかりやすいと私は思うのですが。

 前述したように、私は数学者ではないので、数学 (数学基礎論) そのものを厳正に学習研究する意図はなくて、それでもそうとうに数学基礎論の学習をしてきて、数学基礎論のなかで、事業分析・データ 設計の技術として流用できる技術を一つの体系として使っただけです。本書で定義している モデル 自体も数学的には厳正な定義ではない。でも、実務的には、この定義で十分だと私は思っています。寧ろ、この程度の定義すら記述しないで、モデル あるいは モデリング を論じているほうが奇っ怪でしょう。モデル は、単なる図法 (diagram) ではなくて、「論理 (Logic)」 上の構文論・意味論に立脚した関数の技術なのです。 □

 




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