2022年10月 1日 「1.3 モノは関数のなかの変数(パラメータ)である」 を読む >> 目次に もどる


前回、モデル 作成技術とは単なる図法 (diagram) ではなくて 「論理 (Logic)」 上の構文論・意味論に立脚した関数の技術であることを述べました。関数のことを 「写像」 とか 「変換」 とも云います。たとえば、二つの変数 x, y の間に或る対応関係があって、x の値が定まるとそれに対応して y の値が一つ定まるとき、y は x の関数であると云います。y が x の関数であることを y = f (x) と表します。関数として、変数が 2個、3個、・・・の場合もあります。

集合 A の元 a と B の元 b とが或る条件 p を満たすとき、a と b は 「p の関係にある」 といい、apb と表します── p を R (Relation) とすれば、aRb と表すことができます。aRb は、「a は b に対して関係 R にある」 というふうに読みます。aRb は R (a, b) とも記述できます。そして、R (a, b) は 2項関数 f (x, y) と形が似ています。実務的には、R (a, b) は f (x, y) と同値とみなしてよいでしょう。勿論、数学では、関係 R と関数 f は べつべつの シンボル であって異なる概念ですが、実務的には同じとみなして齟齬はないです。集合が複数ある場合、集合 A1, A2,・・・, An の直積 A1 × A2 ×・・・An の (部分集合の) ことを n項関係あるいは n項の組 (tuple、タプル) と云います。ちなみに、リレーショナル・データベース の理論においては n項関係が使われています。数学では、基本的に 2項関係を使います。

関係 (あるいは、関数) のなかの変項を データ の集まりとして考えれば、モノ が存在するということは変項のなかに真とされる値が充足されることです。すなわち、モノ というのは、なんらかの関係 (あるいは、「構造」) 上の変項として扱うことができて、それらの関係を明らかにすることが 「構造」 をつくるための公理系 (法則) になるということです。すなわち、数学上、モノ というのは 関数の中の 「無定義語」 なのです。どのような関数を使って、その関数のなかの項 (「無定義語」)として どのような 集合 (あるいは、クラス) を考えるかということが法則を定立する方程式なのです。そして、その方程式 (条件) を満たす──つまり、無矛盾な構造のなかに真とされる値が充足される──ということが 「...の モデル である」 ということです。モデル 作成技術というのは 「論理 (Logic)」 上の構文論・意味論に立脚した関数の技術であるというのは、そういうことです。

本節では、集合の定義として、素朴集合論 (カントール の集合論) の定義を述べました。カントール の集合論は、パラドックス (「じぶん自身をふくむ集合はあるか」 という問題) を内包していたので、その後に その ソリューション として、ツェルメロ が集合について いくつか公理を立て、集合構成法を厳正にしました。これを公理的集合論と云います (本書では、公理的集合論については、べつの章で後述しています)。すなわち、集合およびその演算は、厳正な公理的演算 (記号演算、記号の関係) となりました。ツェルメロ の集合論の特徴は、「じぶん自身をふくむ集合」 を避けるために、いきなり大きな集合を考えないで、安全基準として先ず範囲を限定した部分集合 { x ∈ a | f (x) } を基底にしていることです。この a が部分集合です。これを 「分出公理」 と云います。そして、{ x ∈ a | f (x) } のことを 「セット (set、集合)」 (あるいは、domain) と云います。したがって、一つの集合の元の数は、だれが想定しても、同じです──たとえば、埼玉県に住む 20才以上の男子の集まりは 「集合」 になるけれど、美男子の集まりは 「集合」 にはならない。美男子というのは、人によって美意識の判断が違うので、それぞれの人が想定する美男子の集まり (の人数) は違ってくるでしょう。

事業過程・管理過程を対象にした モデル では、難しい数学技術を使っている訳ではない。モノ を集める (集合を構成する) 技術 f (x) と、モノ と モノ との関係 f (x, y) という単純な技術しか使っていない。 x, y が変数 (パラメータ)、f が関数であって、事業過程・管理過程の モノ は関数のなかの変数(パラメータ)として モデル (無矛盾な構造および真とされる値) がつくられるのです。モノ の集まり (集合)および 関係は、単純に次のように覚えておけばいいでしょう──

 ┌────────┬────────┐
 │         │            │
 │    集合    │   関係   │
 │        │        │
 ├────────┬────────┤
 │        │        │
 │    f(x)   │  f(x, y)   │
 │        │        │
 └────────┴────────┘

 




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