2023年 9月 1日 「2.18 さらなる学習のために」 を読む >> 目次に もどる


 「数学基礎論」 を本格的に学習するのであれば、「ゲーデル の定理」(いわゆる 「不完全性定理」) を学ぶのは必須でしょう。「ゲーデル の定理」 のなかで扱われた原始帰納的関数が起点となって、数学者たちが 「計算可能性」 を探究して いくつかの一般帰納的関数が提示されて、「計算可能関数とは一般帰納的関数である」 という合意 (チャーチ の合意) に至った──計算可能関数のなかでも、チューリング の示した関数が 世上 有名ですが、チューニング は概念的 コンピュータ (チューリング・マシーン) を考案しました。チューリング・マシーン は 現代の コンピュータ そのものではなくて プログラム のことです、そして いくつかの チューリング・マシーン を構成して統合して 「万能 チューリング・マシーン」 を作れば、コンピュータ となる──後年、プログラム 内蔵の コンピュータ を作った人物が フォン・ノイマン です。以上からわかるように、「ゲーデル の定理」 は コンピュータ の故郷です。

 私は、いわゆる文系だったので、この辺りの歴史を学んでいなかった。文系出身であった私が 「数学基礎論」 を学習するようになったのは、ウィトゲンシュタイン の 「数学の哲学」 を読んで、ゲーデル の名前を知ったのが 切っ掛けでした。私は 40歳のときに (コッド 関係 モデル を拡張した) T字形 ER法を作る旅に出て、当時 T字形 ER法の根柢に置いた思想は ウィトゲンシュタイン の 「論理哲学論考」 でした。ただ、この思想 (命題論理) では、「関係がそのまま モノ になる」 という現象──具体的には、多値関数の AND 関係──が整合的に説明できなかった。そのために、ウィトゲンシュタイン の 「数学の哲学」 を読んで知った 「ゲーデル の定理」 を学ぼうとした次第です──T字形 ER法を体系的に記述した 「T字形 ER: データベース 設計技法」 (1998年出版) の原稿を執筆するかたわら、私は 「数学基礎論」 を猛烈に学習していました。執筆しているいっぽうで、私は自らが納得していないことを執筆していることに罪悪感を覚えていました。「数学基礎論」 の学習成果を出版したのが 「論理 データベース 論考」 (2000年出版) です、「T字形 ER: データベース 設計技法」 を出版した 2年後 (2000年) です。この 2年間が 私にとって いちばん 辛い時期でした。T字形 ER法は、幸いにも 多くの企業に導入していただき成功を収めていたのですが、私自身は T字形 ER法を納得していなかった。

 「論理 データベース 論考」 を出版して T字形 ER法の いくつかの不備 (構文論的な間違い) を改訂できて、私の抱いていた罪悪感は いくぶん 軽減されましたが、この時点では 私は いまだ 「ゲーデル の定理」 (不完全性定理) を把握していなかった──拙著 (「論理 データベース 論考」) のなかで 「ゲーデル の定理」 についての記述は、ゲーデル の論文の abstract を ほぼ引用したままであって、私が 「ゲーデル の定理」 を皆目わかっていないことを露呈しています (苦笑)。ただ、「論理 データベース 論考」 のなかで、ゲーデル の 「完全性定理」 (の証明) を把握しました。「完全性定理」 の学習が 後々 「不完全性定理」 を学習するときに役立ったのです──すなわち、「完全性定理」 を学習して、「モデル の存在性」 ということを強く意識するようになった次第です。

 「ゲーデル の定理」 (不完全性定理) は、自然数論上の証明なのですが、当時、ツェルメロ (公理的集合論の創始者) や ウィトゲンシュタイン は、「不完全性定理」 を集合論の パラドックス の一つように意味をとり違えていたようです──それくらい難しい定理なので、数学の シロート である私がわかる訳がない。それでも、「不完全性定理」 を なんとか わかるようになりたいと思って、「数学基礎論」 を学習を続けて、その学習成果を 「モデル への いざない」 として出版しました (2009年)。ここに至って、「不完全性定理」 を学習するために前提である ツォルン の補題、レーベンハイム・スコーレム の定理、ゲーデル の完全性定理、タイプ 理論などの 大体のすじみちを把握して、「不完全性定理」 を読み込むための装備を シロート ながら なんとか 揃えることができたという次第です。そして、次の書物が 「不完全性定理」 という高い山を登るための ガイドブック として役立ちました──

  (1)「数学基礎論入門」(前原昭二著、朝倉書店)
  (2)「ゲーデルの世界」(廣瀬健・横田一正著、海鳴社)
  (3)「数の体系と超準モデル」(田中一之著、裳華房)
  (4)「ゲーデルと20世紀の論理学(全四巻)」(田中一之編、東京大学出版会)
  (5)「今度こそわかるゲーデル不完全性定理」(本橋信義著、講談社)

 正直に言えば、私は 「不完全性定理」 をわかっていない (わかった、という実感がない)。その高山を登頂できていない。ただ、上述した ガイドブック の案内に従って、登頂するための道筋を知ることができました。「不完全性定理」 を ちゃんとわかるためには、自然数論を学習しなければならないのでしょうね。私は数学を専攻していないので──そして、私は私の専門分野 (モデル 作成技術) をもっていて、その専門分野に時間を注がなければならないので──、数学を専攻している人たちと同じ程度に自然数論を詳細に学習するのは ムリ です。

 本 エッセー の冠頭にて 「『ゲーデル の定理』(いわゆる 『不完全性定理』) を学ぶのは必須でしょう」 と述べましたが、(「数学基礎論」 を専攻しているのなら、絶対に そうでしょうが) 数学の シロート が自らの仕事 (たとえば、数学を使いながらも工学的な モデル 作成技術) のなかで 「論理」 を学ばなければならないのであれば、私の学習ような程度の学習で精一杯でしょう。それでも、シロート の学習としても そうとう高度な学習だと私は思っています。私と同じような境遇にある人であれば──すなわち、数学を専攻していないけれど、仕事で 「論理 (数学基礎論)」 を使わなければならない人であれば──上述した 5冊を読み込んでいれば充分でしょう。 □

 




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