2002年 4月14日 作成 負債会計 >> 目次 (テーマごと)
2006年 8月 1日 補遺  

 
 1. 負債の定義

 負債の概念には以下の2つがある。

 (1) 法的債務
 (2) 損益計算的な計上対象 (負債性引当金)

 なお、偶発債務 (例えば、債務保証など) は オフ・バランス とされ、貸借対照表上、「注記」される。

 [ 注意 ]
 ゼネコン は下請け企業の協力を得るために債務保証をすることが多い。
 債務保証は オフ・バランス になっているので、「注記」 を参照しなければならない。
 というのは、利益が計上されていても、債務超過に陥っていることもある。
 債務保証に対しては引当金を計上しない傾向が強い。というのは、もし、債務保証に対して引当金を計上すれば、--引当金の性質から判断すれば--債務保証の貸倒れの可能性が確実であることを意味する。とすれば、当然ながら、経営者(ゼネコン の経営者と下請けの経営者)は計上を回避したがる。
 もし、引当金を計上したとしても、負債が大きくなれば、ゼネコン は公共事業の入札では不利となる。
 以上の理由から債務保証に対して引当金を計上していないことが多い。

 2. 負債の分類

 負債は、以下の2つの観点から類別できる。
 (1) 返済期限
 (2) 属性

 返済期限を基準にすれば、負債は以下の 2つに類別される。
 (1) 流動負債
 (2) 固定負債

 流動性を判断する基準は、以下の 2つが使われる (「資産会計」 を参照されたい)。
 (1) 正常営業循環基準
 (2) 1年基準 (ワン・イアー・ルール)

 属性を基準にすれば、負債は以下の 2つに類別される。
 (1) 債務 (確定債務と条件付債務)
 (2) 非債務

 [ 参考 ]
 年金債務については、後日、「年金会計」 のなかで扱う。

 引当金は負債とされる。
 引当金の計上は、以下の基準を満たしていなければならない。
 (1) [ 発生の可能性 ] 対象となる費用・損失の可能性が高い。
 (2) [ 発生の後期性 ] 対象となる費用・損失が次期以後に帰属する。
 (3) [ 原因の当期性 ] 対象となる費用・損失の原因が当期に帰属する。
 (4) [ 計算の合理性 ] 対象となる費用・損失の見積もりが合理的に計算できる。
 (5) [ 計算の非恣意性 ] 計上および取り崩しは恣意的であってはならない。

 引当金と似た概念として積立金があるが、会計上、引当金と積立金は違う。
 将来の事象に備えて積み立てても、以上の基準の 「すべて」 を満たしていなければ引当金ではない。
 以上の基準のいずれか 1つでも満たしていなければ積立金 (利益留保) である。

 例えば、「創立15周年記念事業」 のために積立をしていれば、(1) と (2) を満たしてはいるが、(3) (4) (5) を満たしてはいないので、(「引当金」 ではなくて) 「積立金」 である。
 なぜなら、利益の多いときには多く積立て、利益の少ないときには積み立てない、という恣意性が強い。

 引当金は以下の 2つに類別される。
 (1) 評価性引当金
 (2) 負債性引当金

 評価性引当金は「資産」の部に記載される。「評価勘定」 形式を使って表示される引当金である。
 例としては、貸倒引当金がある。

 [ 参考 ]
 評価勘定とは、資産の購入価額から控除する形式の勘定である。
 例えば、減価償却累計額は有形固定資産の取得原価から控除される評価勘定である。
 取得原価から評価勘定を減算すれば簿価になる。

 負債性引当金は 「負債」 の部に記載される。以下の引当金が例である。
 (1) 製品保証引当金 (債務)
 (2) 退職給与引当金 (債務)
 (3) 修繕引当金 (非債務)

 [ 参考 ]
 持分」 という用語が使われることがある。
 「持分」 とは資産全体に対する請求権を意味している。以下の 2つに類別される。

   (1) 債権者持分 (貸借対照表上の 「負債」)
   (2) 株主持分 (貸借対照表上の 「資本」)

 ただ、債権者持分と株主持分の境界線が曖昧になってきている。
 例えば、転換社債や ワラント 債のように債権者持分とも株主持分とも考えられるような負債証券がある。
 転換社債とは株式に転換できる社債をいい、ワラント とは (社債を保有したまま) 株式を購入できる権利である。
 したがって、これらは 「潜在株式」 とも呼ばれている。
 日本経済が 「バブル」 の渦中にあった頃、ワラント という言葉を経済新聞のなかで、多々、見ることがあったが、最近は、ほとんど、見ない。というのは、「バブル」 の頃には、これらを株式に転換して売却すれば キャピタル・ゲイン を得ることができたが、「バブル」 崩壊後では、メリット がないので、ほとんど、使われていない。

 



[ 補遺 ] (2006年 8月 1日)

 企業取引上、負債は (法令 [ 商法・民法 ] 上の) 「債務」 なので、性質が はっきりしていて、負債会計上、(法令上の 「債務」 を負債にしないということはないので、) 論点になることはない。
 負債会計上、論点になるのは、会計的技術として計上される 「引当金」 である。とくに、修繕引当金は、非債務的な性質を帯びているので、商法・民法上の債務ではないが、会計上 (したがって、会計関連法令上)、債務とされる。そして、商法・会社法は、企業取引の記録に関して、会計の法令に従うことを定めている。

 負債性引当金のなかで、実務上、論点になっていたのは 「債務保証」 であった (本文参照)。さらに、実務上、「奇妙な」 措置として導入されたのが--時限立法ではあったが--「土地再評価」 の評価益を 「負債」 として計上した政策であった。
 1998年 3月、議員立法として、「土地再評価法」 が施行された。土地を時価で評価して、再評価益を貸借対照表上に [ 負債として ] 計上することを認める法律である。法律の対象とされたのは金融機関である。というのは、適用趣旨は [ 政策的に ] 自己資本比率を改善することにあった。1998年 3月期に再評価を実施した銀行の数は過半数を超えた。
 その後 (1999年 3月に) 改正され、(再評価の実施期限を延長して、) 再評価益の 60%を 「資本として」 計上できるようにして、資本計上した 3分の 2を上限として自己株式の取得消去をできる、とされた。さて、この 「改正」 は、なにを意味しているのか、と言えば、「負債 (他人資本) として」 扱えば、ROA (総資本利益率) が低下するので、「資本組み入れ」 にして、資本計上した 2/3 まで自己株式を取得消去すれば、ROA も ROE も改善することができるからである。したがって、(会計理論上の論点ではなくて) 「政策的な」実施であった。

 日本経済が 「バブル期」 にあった頃、借入をして事業を営むことは、レバレッジト効果があった--負債の支払利子を払う以上に、事業から得られる収益のほうが大きかった--が、「バブル」 がはじけた後の低成長期では、有利子負債は大きな負担となった (有利子負債を返還できなくて倒産した大企業も いくつか出た)。キャッシュフロー経営では、有利子負債をもたないというのが鉄則である。

 「持分」 という用語に関して、会社法では、興味深い対応があったように思う。会社法の 「公開案」 では、「株主持分変動計算書」 という言いかたがされていたが、実際の会社法では、「株主資本等変動計算書」 に変更されていた。「持分」 という用語が変更されたことを鑑みれば、法務省のなかで、用語法に関して再検討されたのだと思う。




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