2002年 9月 1日 作成 税効果会計 (その 1) >> 目次 (テーマごと)
2006年12月16日 補遺  

 

1. 税効果会計の目的

 税効果会計が導入されたのは、2000年の 3月期決算からであるが、税効果会計が導入されるまでは、ほとんどの企業が税法に従った税務会計の決算をしてきた。
 日本の税法は (商法で確定した決算の利益に対して課税する) 確定決算主義を前提にしているので、税務上有利な扱いをしたいなら--たとえば、損金 (税務上の費用) の算入を多くしたいなら--、商法の決算のなかで、税法が認めている措置を使わなければならなかった。
 税法上の (課税対象となる) 所得は、益金 (税務上の収益) から損金 (税務上の費用) を控除して計算する。そして、所得に対して税率を適用して課税する。
 損金に対しては、「損金算入限度額」 が設定されていることがある。つまり、その限度額を超えて計上すれば、課税対象となる。(財務会計の手続きに従って) 税務上の限度額を超えて償却することを 「有税償却」 ともいう。

 税効果会計は、財務会計と税務会計との違いを調整する会計である。
 調整の対象となるのは、貸借対照表上の資産・負債のなかで、財務会計と税務会計との間で差異があり、差異が、将来、課税 (あるいは費用計上) として解消できる項目である。永久に調整されない差異は、税効果会計の対象とはならない (たとえば、交際費)。

 税効果会計を使えば、税務上の措置が財務会計の費用計上を牽制することがない。
 したがって、今まで、「有税償却」 をしてきた企業にとって、税効果会計の導入は有利になったが、逆に、「損金算入限度額」 を利用して費用計上を抑制してきた企業にとって、税効果会計の導入は、財務会計上の費用を一挙に増大することになる。

 利益に対して課税される税金には、以下の 3つがある (現在、税率の低減が論点になっている)。
 (1) 法人税 (34.5%、費用計上できない)
 (2) 住民税 (法人税の20.7%、費用計上できない)
 (3) 事業税 (11.55%、費用計上できる)

 したがって、税率 (法定実効税率) は、企業の規模によって異なるが、一般的には、48%と覚えておけばよい。事業税は費用計上できるので、「販売費及び一般管理費」 のなかで扱っていた。
 税効果会計では、税金は、損益計算書のなかの税引前利益のあとに一括して記載する。

 税効果会計では、資産が増加する傾向にある。というのは、財務会計では費用計上されているが、税務会計では損金扱いになっていないことが多いから。

 不良債権を抱えていた金融機関にとって、税効果会計は有利に作用した。(税効果会計が有利に作用することがわかっていたので、) 金融機関に対しては、税効果会計は 1年早めに--1999年の 3月期決算から--導入された。たとえば、不良債権 100万円に対して、100%の貸倒引当金を計上しているとして、税務上、貸倒引当金の全額が否認されたとする。とすれば、当期に、100万円は財務会計上では費用であるが、税務上では益金になるので、税率を 50%とすれば、50万円の税金を支払うことになる。次期に、100万円が貸倒れになったとすれば、100万円を損金に算入できるので、税金の支払いが減少する。

 税効果会計は、この期間的ズレを調整するための会計である。
 すなわち、最初の費用計上 100万円が合理的であるかぎり、税金の支払い対象とはならない、とされる--つまり、税金の前払いが調整される。そのために、現象的には、「税金が安くなったように」 映る。

 銀行が導入した税効果についての調査によれば、個別財務諸表では、繰延税金資産が資本に占める比率が平均で 27.4%になり--最大値では 39%になっていて--、税効果会計の導入が大いに影響したことがわかる [ 伊藤邦雄、「ゼミナール 現代会計入門」、日本経済新聞社、2001年 ]。

 次回は、税効果会計のしくみについて概説する。



[ 補遺 ] (2006年12月16日)

 「企業会計上の利益 (または費用)」 と 「課税所得計算上の益金 (または損金)」 との認識時点の相違があるために、「企業会計上の資産 (または負債)」 の額と 「課税所得計算上の (資産または負債)」 の額に相違がある場合、税金の額を適切に期間配分することを目的とする手続きが税効果会計です。

 財務会計の目的と税法の目的の違いによって起こる損益認識基準の ズレ は、国際的な資金調達をはじめとする事業活動がグローバル化してきたので、国際会計基準との調整が問題となっていました。

 従来、連結決算においてのみ任意適用が認められてきましたが、平成11年4月以後開始する事業年度から単独決算・連結決算で導入されました。

 たとえば、企業会計上、貸倒損失を100万円計上していたとしても、法人税法上、50万円しか損金算入が認めらない場合には、50万円 (100万円 − 50万円) は所得に加算されます。法人税の実効税率を40%とすれば、50万円の 40% (20万円) を税金として支払うことになります。しかし、この20万円は、損金算入されなかった 50万円についても貸倒損失 (損金) として税務上認められた時に、税金の支払いが減少するので、費用ではない。この ズレ を調整をする手続きが税効果会計です。




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