2003年 1月16日 作成 現代経営の基礎構造 (企業と事業) >> 目次 (テーマごと)
2007年 4月16日 補遺  

 

1. 有限責任制度と有価証券制度

 歴史的に観れば、産業革命が完了して産業社会が成立するにつれて--取扱商品の多様化と多量化が起こって--、個人商人や owner-manager に取って代わる経営主体が現れた。
 企業は投資を目的とする資本結合の組織体になった。そして、以下の 2点を前提にする 「株式会社」 という企業形態が現れた。

 (1) 有限責任制度
 (2) 有価証券制度

 企業は合理的な利潤追求の経営主体となった。

 
2. 重役制度と経営の専門家

 企業が大規模化するにつれて、企業経営から事業経営へと経営の対象が移って、少数の大株主が資本家代表として owner-manager になって経営をおこなう 「重役制度」 が成立して-- owner のなかで所有と経営が切り離されて--、さらに、professional manager が経営をおこなう 「management control」 が成立した-- owner と manager が切り離されて、manager が主体になった。

 現代の経営は、事業経営として、事業目的を達成することを期待する経営形態になっている。
 事業は経営の目的であり、投資の対象である。そして、経営は事業の主体であり、事業を対象とする。

[ 注意 ]

 「management」 には以下の 2つの意味がある。

 (1) 作用 (経営の機能)
 (2) 主体 (経営者)

 
3. 企業経営と事業経営

 事業経営は企業経営を前提にしている。
 事業経営は投下資本の運用である。
 資本は投下される前に調達されなければならない。
 資本が調達されるためには企業が成立していなければならない。

 企業と事業と経営は、会計学的に観れば、以下のような関係にある。

 (1) 企業は貸借対照表の貸方である。
 (2) 事業は貸借対照表の借方である。
 (3) 経営は貸方と借方を結ぶ機能である。

 経営は、資本を調達して事業を創造し (あるいは、事業を選んで)、環境の変化を予見して、あらかじめ、組織を変化に対応できるように計画的に準備しなければならない。したがって、環境適用能力が経営戦略の論点である。

 

貸借対照表
借方 貸方
事業企業
経営

 

4. 事業過程と トータル・マーケティング

 事業過程は以下の 5つに類別される。

 (1) 購買過程
 (2) 生産過程
 (3) 販売過程
 (4) 労務過程
 (5) 財務過程

 購買過程・生産過程・販売過程は 「ライン 機能」 であり、労務過程・財務過程は 「スタッフ 機能」 である。事業過程を実践するのは人であるが、人が 「協業」 するための形態が組織である。

 マーケティングを 「組織が環境に適応するしくみを作る行為」 であるとすれば、事業 (あるいは、事業過程) は 「total marketing」 である。



[ 補遺 ] (2007年 4月16日)

 経営過程は、以下の 3つの過程として考えられる。

 (1) 事業過程
 (2) 管理過程
 (3) 組織過程

 管理過程は、事業過程に対応して、以下の 5つで構成される。

 (1) 購買管理
 (2) 生産管理
 (3) 販売管理
 (4) 労務管理
 (5) 財務管理

 経営は、事業を効果的・効率的に実施するための管理手法をいうのだから、これらの管理過程を いかに構成するかという点が経営の論点になる。

 ポパー (Popper, K. 哲学者)は、以下の 3つの 「世界 (の関係)」 を示した。

 (1) 第一世界としての物理的世界 (物的状態の世界)
 (2) 第二世界としての心的世界 (心的状態の世界)
 (3) 第三世界としての 「知性が把握しうる世界」 (客観的意味の世界)

 この 3つの世界に経営過程を当てはめてみれば、以下のように考えられる。

 (1) 物理的世界 (物的状態の世界) [ 事業過程 ]
 (2) 心的世界 (心的状態の世界) [ 経営 ]
 (3) 知性が把握しうる世界 (客観的意味の世界) [ 管理過程 ]

 「第三世界」 は、それ自体、自律性があることを、ポパー 氏は示した。「第三世界」 は、人間が作った産物であるが、それは、翻って逆に、それ自体の自律性を生み出す。自律性は、絶対的ではない。新しい (潜在的な) 問題点は、新しい構成を導いて、新しい対象が、「第三世界」 に加わる。そして、このような進化的歩みは、ポパー 氏のことばを引用すれば、「新しい意図しなかった事実、新しい予期しなかった問題を、そして、また、しばしば、新しい反証を生み出す」。
 ポパー 氏は、理論 (あるいは、知識) の進化として、以下の図式を示した。

    P1 → TT → EE → P2

 P1は、思考対象となった問題点である。P1からはじまって、TT という 「暫定的な ソリューション (あるいは、理論)」 に進む。TT は、部分的あるいは全体的に、間違った理論かもしれない。そして、EE という 「誤り排除」--すなわち、実験的 テスト や験証や反証--の篩 (ふるい) にかけられる。「第三世界」 の自律性、および、「第三世界」 の (第一世界・第二世界に対する)feedback--「誤り排除」 の制御--は、知識の進歩には、a must な作用である。

 管理過程は、つねに、事業過程との相互作用のなかで、有効性を検証されなければならない。というのは、管理過程では、自律性のなかで、「管理のための管理」 という事態に陥ることがある。そして、「管理のための管理」 に陥った経営は、「現実」 から乖離して、制度が形骸化し、環境適用力を喪い、企業を弱体化してしまう。




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