2003年 3月 1日 作成 経営分析 (その 2) [ 流動性・安全性・資本構成 ] >> 目次 (テーマごと)
2007年 6月 1日 補遺  

 
 前回は、収益性の分析を述べたので、今回は、そのほかの以下の 3つの指標を述べる。

 (1) 流動性
 (2) 安全性
 (3) 資本構成

 
1. 流動性の分析

 流動性を分析する主な比率としては以下の 2つがある。

 (1) 2 対 1 の原則 [ 流動資産 ÷ 流動負債 ]
 (2) 酸性試験比率 [ 当座資産 ÷ 流動負債 ]

 「2 対 1 の原則」 というのは、流動資産 (当座資産や棚卸資産など) が流動負債の 2倍以上であれば、流動性 (換金性) が高いという指標である。ただ、流動資産には棚卸資産がふくまれているが、流動負債を返済する際に棚卸資産が直ぐに換金化できるという保証はない。

 そのために、当座資産 (現金預金、金銭債権、有価証券) を使って流動性を判断する指標が酸性試験比率 (あるいは、当座比率) である。酸性試験比率は 100%以上であることが理想とされている。

 
2. 安全性の分析

 安全性分析では以下の数値が使われる。

 (1) 固定比率 [ 固定資産 ÷ 自己資本 ]
 (2) 長期固定適合率 [ 固定資産 ÷ (固定負債 + 自己資本)]

 固定比率は、固定資産に対して投下されている自己資本の度合いを示している。100%以下が理想とされる。つまり、固定資産を自己資本の枠内にしておくのが安全であるという考えかたである。

 固定負債を加味した比率が長期固定適合比率である。100%以下であることが理想とされる。
 固定比率が 100%以上であっても、長期固定適合比率が 100%以下であれば問題はないとされている。

 
3. 資本構成の分析

 資本構成の健全性の判断には資本構成比率 (自己資本 ÷ 総資本) を使う。

 「有利子負債」 は利子を支払わなければならない。すなわち、負債があれば、収益があろうがなかろうが、利子を支払わなければならないということである。資本のなかで、他人資本 (負債) の比率が高いということは収益から控除される利子が多いということである。

 たとえば、他人資本 (負債) と自己資本の比率は、日本では、従来から、他人資本偏向であった。
 他人資本の内訳として、流動負債と固定負債の比率を考えて--たとえば、「55:45」 とする--、資産の内訳として、流動資産と固定資産の比率を考えて--たとえば、「60:40」 とする--、流動資産の比率が高ければ、資本構成を 「資金的対応関係 (貸借対照表の財産状態)」 から判断して、資金的な安定性は保証されている。ただし、問題点となるのは、「収益 (損益計算書の経営成績)」 を考慮すれば、もし、収益が低減傾向になって キャッシュフロー が低下すれば (流動資産の比率が下降すれば)、有利子負債に対する資金の流動性を保証できない危険性がある。

 日本では、長期資金を調達するために、株式の発行 (自己資本の増加) に比べて、銀行からの借入 (他人資本) に依存することが多かった。歴史的に観れば、戦後間もない頃には、株式市場は整備されていなかったので、資金調達は直接金融の形ではなくて間接金融の形にならざるを得なかったし、高度成長期には、経済の成長率が利子率に比べて大きいので、借入の レバレッジ 効果が有利に作用したし、金利が、税務上、損金算入できるために、企業にとって、間接金融は メリット があった。しかし、経済成長率が低下したら、逆効果になる。負債を極力抑止して自己資本を充実して資本構成を是正することを 「企業の体質改善」 という。

 
 次回は、簡単な例題 (貸借対照表と損益計算書) を使って、収益性・流動性・安全性・資本構成を判断してみる。



[ 補遺 ] (2007年 6月 1日)

 経営分析のなかで、「流動性・安全性」 を調べる比率は、学習入門書では、「定番」 です。ただ、これらの比率を杓子定規に あてがって 「企業を判断する」 ことはできない。というのは、先行的な設備投資もあるから。経営分析の指標は、「企業を判断する」 ための情報のなかで、あくまで、1つの指標にすぎない。「企業を判断する」 ためには、もし、財務諸表しか入手できないとしたら、過去 10年くらいを範囲にした財務諸表を対象にしなければ--言い換えれば、単年の財務諸表を対象にしても--、判断を下すことは危険です。

 実際の分析では、分析の目的によって、信用分析とか投資分析などがあって、精緻な分析手法が使われています。信用分析では、ウォール の指数法が一般的に使われていて、ほかにも、多変量解析法が社債格付け・倒産予測に使われていますし、投資分析では、ポートフォリオ 理論 (資産選択理論) が使われていて、リスク を加味して、証券価格と財務情報との関連が分析されています。




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