1. 年金会計の目的
退職給与は、従業員の労務提供に対する対価と考えられ、以下の 2点を特徴とする。
(1) 原因の当期性
(2) 発生の後期性
日本では、退職給付は、以下の 2つがある。
(1) 年金
(2) 一時金 (退職給与引当金を計上していなければならない)
[ 参考 ]
引当金は、従来、税法上の損金算入が認められていた限度額 (40%) を計上していた企業が多い。
退職給付の原資には、以下の 2つがある。
(1) 外部積立
(2) 内部積立
外部積立は原資を外部 (信託銀行や生命保険) に拠出して信託銀行や生保が基金を運用する形態である。この代表的な形態として、以下の 2つがある。
(1) 税制適格年金制度
(2) 厚生年金基金制度
年金制度には、以下の 2つがある。
(1) 確定拠出金 (掛金建て) 年金制度
(2) 確定給付金 (給付金建て) 年金制度
確定拠出金年金制度では、企業は年金基金に対して確定した金額を払い込み、年金基金が年金の運用・支払をする。払込金額は当期の費用とされる。年金受給者は、年金基金の運用次第では、年金の受取額が増減する。
確定給付金年金制度では、退職年金の給付は一定とされるので、年金基金の運用次第では、企業の負担が、極端に言えば、ゼロ にもなれば膨大にもなる。年金受給者は、年金の受取額が確定している。
2. 年金債務と年金資産
年金は、貸借対照表上、以下の 2つの相関関係として記載される。
(1) 年金債務(退職給付債務)
(2) 年金資産 (株式や債券などに投資して運用される)
年金債務 (退職給付債務) は、以下のように計算される。
(1) 退職時の給付額を予測する。
(勤続年数に応じた支給倍率を使っていれば、退職時の給付も昇給率で計算しなければならない。)
(2) 退職時の給付額を、それぞれの会計年度ごとに、勤務年数に対応して配分する。
(3) 現在価値の割引計算をする。
(割引率は、国債または優良企業債などの安全性の高い長期債券の利回りを参考にする。)
たとえば、退職給与を 2,000万円とする。
入社して 10年たって、退職まで 30年ある、とする。
とすれば、年 50万円となる (2,000万円 ÷ 40年 = 50万円)。
したがって、すでに発生している債務は 500万円となる (50万円 × 10年 = 500万円)。
そして、500万円の割引現価を計算すればよい。
[ 参考 ]
割引現価の計算は複利計算の応用なので、複利計算を説明した「Advanced Learner's」(3月 3日記載)を参照されたい。
年金資産は時価を使って評価される。
そして、年金債務(退職給付債務)から年金資産の時価を控除した金額が引当金として計上される。
[ 年金債務 − 年金資産 = 退職給与引当金 ]。
たとえば、年金債務の現在価値が 300万円として、年金資産の時価が 200万円なら、退職給与引当金として 100万円を計上する。
[ 参考 ]
新基準では、オフ・バランス になっていた年金債務が貸借対照表上に記載される。
(年金資産を年金債務から控除しても) 一部上場企業全体の債務は 60兆円から 80兆円に及ぶと言われている。ひとつの企業でも、数千億円の債務になっている例が少なくない。
新基準では、会計手続きの変更時の差異は 15年以内の一定年数で定額法によって費用計上することが認められているが、(経済新聞の報道によれば) 多くの企業は、短期間のうちに償却しようとしている。
というのは、変更時の差異は、貸借対照表上に注記されるので、債券の格付けなどの企業評価に影響するから、早めに対応したいようである。
[ 参考 ]
退職給付金の負担が大きいし、年金の運用利回りが低いので、退職金制度を見直す企業が増えている。
見直しの一つが、確定給付をやめて確定拠出を導入する論点である (それが 「日本型 401K」 の導入である--401K は、端的に言えば、従業員の自己積立方式の個人年金である)。
もう一つは、退職給付金制度をやめて、月々の給与に上積みするという論点である。或る企業が給与上積みを導入するために社員に打診したら、--人事部は、社員全体の 10%程度の応募を予想していたが--社員全体の 40%近くが申し出たそうである。
次回は、デリバティブ取引を説明する。