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2007年 1月16日 補遺  

 

 「減損会計基準(の意見書)」 は、去る 8月に公表された。

1. 減損会計の目的

 資産の減損とは、資産の収益性が低下して投資額の回収が見込めない状態をいい、減損会計の目的は、この減損 (損失) を将来に繰り延べないようにする点にある。
 したがって、資産の減損は、金融商品に適用される時価評価とは違い、取得原価主義の枠内で計上される 「帳簿価額の臨時的な減額」 である
 言い換えれば、現時点での帳簿価額を時価と比較して評価損を計上するのではなくて、資産として投下された資本の収益性 (回収可能性) を判断することが目的である

 
2. 対象資産

 減損会計の対象となる資産は、固定資産として分類される資産 (有形固定資産、無形固定資産および投資その他の資産) である。ただし、減損に関する定めが他の基準のなかで記述されている資産は対象外とされる。
 対象外とされる資産として、減損会計基準では、以下が例示されている。
  (1) 金融資産 (金融商品に係わる会計基準)
  (2) 繰延税金資産 (税効果会計に係わる会計基準)
  (3) 前払年金費用 (退職給付に係わる会計基準)

 
3. 減損損失の認識

 減損の兆候がある資産あるいは資産 グループ について、「割引前の」 将来 キャッシュ・フロー の総額が帳簿価額を下回るときには減損損失を認識する
 割引前将来 キャッシュ・フロー を見積る期間は、資産の経済的残存使用年数または資産 グループ については、主要な資産 (将来 キャッシュ・フロー 生成能力にとって最も重要な構成資産) の経済的残存耐用年数と 20年のいずれか短いほうとする。

 
4. 減損損失の測定

 減損損失を認識すべきであると判断された資産または資産 グループ については、帳簿価額を回収可能価額まで減額し、当該減少額を減損損失として当期の損失とする。なお、減損損失は、固定資産売却損と同じように、固定資産の臨時的な損失であるので、原則として、特別損失とされる
 資産は売却あるいは使用のいずれかの手段によって投資を回収されるので、回収可能価額は、以下のいずれか高い方とする。
  (1) 正味売却価額
  (2) 将来の キャッシュ・フロー の現在価値

 
5. 将来 キャッシュ・フロー と割引率

 減損損失の認識と測定のなかで、将来 キャッシュ・フロー を見積らなければならないが、「企業に固有の事情を反映した合理的で説明可能な仮定及び予測に基づいて見積る」。
 将来 キャッシュ・フロー の見積額は、生起する可能性の最も高い単一の金額 (a best-estimate approach) または生起しうる複数の将来 キャッシュ・フロー をそれぞれの確率で加重平均した金額 (a probability weighted approach) のいずれかである。
 割引率は税引前利率を使い、(リスク を加味して) リスク 調整後の割引率を適用する。

 
6. 資産 グループ

 資産 グループ (資産の グルーピング) は、他の資産または資産 グループ の キャッシュ・フロー から概ね独立した キャッシュ・フロー を生成する最小の単位とする。
 資産 グループ に対して認識された減損損失は、帳簿価額に基づく比例配分などの合理的な方法により、当該資産 グループ のそれぞれの資産に配分する。

 
7. 共有資産

 共有資産とは、「複数の資産 グループ の将来 キャッシュ・フロー の生成に寄与する (「のれん」 以外の) 資産」 のことをいう。例えば、本社の建物や研究所の施設など。
 共有資産の取扱いには以下の 2つがある。
  (1) 上位の (より大きな) 資産 グループ を生成する
  (2) 減損の兆候がある資産 (あるいは資産 グループ) に対して比例配分する

 我が国の減損会計基準では (1) を原則としている。ただし、(2) も認められている。

 
8. のれん

 複数の事業に係わる 「のれん」 を一括して減損することは合理的ではない。「のれん」 の減損も、共有資産と同じように、「上位資産 グループ」 法と 「比例配分」 法が認められている。なお、「のれん」 は、現行の会計制度において、資産計上して償却されることを前提にしているが、企業会計審議会は 「企業結合に係わる会計基準」 を審議中であり--「のれん」 に係わる会計基準も検討対象となっているので--、今後、「のれん」 の減損については、他の基準 (「企業結合に係わる会計基準」) の定めのなかで記述される可能性が高い。

 
9. 減価償却

 減損損失を計上した後の帳簿価額を、その後の事業年度にわたって原価配分するために、減価償却を実施する。

 
10. 減損損失の戻入れ

 減損損失の戻入れはしない。

 
11. 貸借対照表上における表示

 原則として、取得原価から減損損失を直接控除する。
 したがって、減損損失を控除した金額が、その後の取得原価となる。
 ただし、減損損失累計額を、取得原価から間接控除する形式も認められている--減損損失累計額を減価償却累計額に合算して表示することができる。

 
12. 損益計算書における表示

 減損損失は、原則として、特別損失とする。

 
13. ファイナンス・リース

 ファイナンス・リース には以下の 2つの取扱いが認められている。
  (1) [ 原則として、] 売買取引として取り扱う
  (2) [ 一定の注記を付すことを前提にして、」 賃貸借取引として取り扱う

 (1) は減損の対象資産となり、減損会計が適用される。(2) も、[ (1) との均衡上、] 減損会計と同様の効果をもつ取扱いをしなければならない。すなわち、未経過 リース の現在価値を リース 資産の帳簿価額とみなして減損会計を適用する。その際、減損損失は負債として計上して、リース 契約の残存期間にわたり規則的に取り崩し、支払 リース 料と相殺する。

 
14. 投資不動産

 投資不動産とは、賃貸収益あるいは資本増加を稼得するために保有されている不動産のことをいう。したがって、遊休地も、通常、投資不動産として分類される。
 (流動資産である) 販売用不動産は 「強制評価減」 の対象となるが、評価の基準となる 「時価」 には以下のように多くの種類があり、いずれかを選択することが認められている。
  (1) 不動産鑑定士による鑑定評価額
  (2) 公示価格
  (3) 路線価による相続税評価額
  (4) 固定資産税評価額を基礎にした倍率方式を使った相続税評価額
  (5) 近隣の取引事例から比較した価格

 従来、税務上、強制評価減の損金算入がむずかしいことも影響して、不動産の評価額を取得原価主義によって計上するのが一般的であった。
 [ IAS では、投資不動産について、公正価値 (時価) で測定するやり方と取得原価で測定するやり方のいずれかを任意に選択することを認めているが ] 日本の減損会計基準では、投資不動産についても、時価の変動をそのまま損益に算入しないで、取得原価主義によって計上して、減損会計の対象としている。
 なお、投資不動産の時価情報の注記に関しては、今後の課題とされている。

 
15. 「土地の再評価に関する法律」 により再評価を行った土地

 再評価後の帳簿価額に基づいて減損会計を適用する。

 



[ 補遺 ] (2007年 1月16日)

 減損会計は、平成 14年に公表されていながら、実際の導入は、平成 18年度の決算報告からになった。すなわち、4年間のあいだ、適用されなかった。その理由は、産業界が猛反対したからである。1990年代のはじめ頃に、バブル経済が崩壊して、資産の価値が下落した状態のなかで、減損会計を導入すれば、(減損会計は、取得原価主義のなかで適用されるので、) 多くの企業の決算報告では、資産が減損 (特別損失) の対象になるのは明白だったから。そういう状態なかでも、収益を確実に伸ばしてきた企業は、減損を前倒しで計上したことが経済新聞に報道されていた。

 減損会計の特徴は、固定資産 (投下資本) を対象とする点にある。資産が収益獲得能力として定義されるのなら、投下した資本が回収できないのであれば、資産の価値を減損するのは、定義に照らして、当然な措置である。

 減損会計が導入されたので、企業は、資産を オフ・バランス化 (貸借対照表から外すこと) する傾向が強まった。すなわち、投下資本を回収できない資産あるいは キャッシュフロー を生まない資産を早めに売却して、貸借対照表から外すようになった。そして、いっぽうで、J-RIT のように、資産を証券化する傾向も出てきた。

 第二次大戦後、いまだ、証券市場が整っていなかったので、銀行からの借入を主体として資本が構成されていたので--昭和 30年代では、負債が資本のなかで占める比率が、平均して、6割であったので--、従来、資産 (特に、土地) を保有していれば 「担保力」 があるという考えかたが強かったが、近年、資産の価値を キャッシュフロー の観点から判断するようなって、「体質改善 (他人資本の比率低減)」 が進んでいる。




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