[ 補遺 ] (2008年 3月16日)
私 (佐藤正美) は、情報 システム・コンサルタント として、ユーザ 企業の事業戦略に関与しても、企業戦略に関与したことがありません。したがって、私は、企業戦略に関して、書物で知識を得ただけであって、実際の企業戦略が どのようにして策定されるかを知りません。私は、以下の書物から 「戦略」 に関して知識を得ました。
(1) STRATEGIC PLANNING, George A. Steiner, FREE PRESS
(2) 戦略策定--その理論と手法、ホファー・シュンデル 共著、奥村昭博・榊原清則・野中郁次郎 共訳、千倉書房
(3) [ 新訂 ] 競争の戦略、M.E.ポーター 著、土岐 坤・中辻萬治・服部照る夫 共訳、ダイヤモンド社
(4) 経営戦略立案ハンドブック、デービッド A. アーカー 著、今枝昌宏 訳、東洋経済新報社
ひとつだけ注意をしておけば、こういう書物を読んで、「戦略」 をわかったつもりになってはいけない、ということです。こういう書物を読んでも、「そういうもんなのか」 という程度で止めておけば宜しい。私が専門にしている データベース 設計では、「技術」 が問われますが、経営書を読んでいても、コンピュータ 技術のような詳細な技術が記述されていないので、うっかりすると、経営書を読んで、「概念」 のみを理解したら、あたかも、経営をわかったつもりになってしまう危険性が高い。そういう 「習之罪」 に陥らないように注意していれば、こういう書物を読んで、「戦略」 に関する知識を得ることは、いずれ、なんらかの思考に役立つでしょう。
本 エッセー で示した概念のなかで、いくつかの補足をしておきます。
まず、「経験曲線効果」 は、コスト に関して、ボストン・コンサルティング・グループ (BCG) が実証した以下の経験則です
(1) 総累積生産量が 2倍になるごとに、コスト は 20%〜30% ほど低減できる。
(一般的に言えば、生産量を増大すれば、単位当たりの コスト が低減できる、ということ)
(2) トータルコスト の低減についても適用できる。
「製品 ライフサイクル 論」 は、プロダクト の寿命 (製品寿命) を以下の段階に類別して、製品が マーケット の中で、どの段階にあるか ということを知って、製品普及率・市場 シナジー・潜在購買力・競争企業の対応などを予測する考えかたです。
(1) 生成期
(2) 成長期
(3) 成熟期
(4) 衰退期
たとえば、生成期では、市場拡大を狙って、プロモーション 政策を進め、プロダクト・ミックス の調整を図るでしょうし、成長期では、市場浸透を狙って、チャネル 政策を進め、価格切り下げなどを図るでしょうし、成熟期では、差別化を狙って、プロモーション 政策を打ち、製品修正・市場修正を図るでしょうし、衰退期では、撤収を考えて、合理化対策を図るでしょう。
PPM 論は、BCG が、「市場の成長率と、製品の市場 シェア」 に着目して、以下の戦略的事業単位を資金の流れから判断した考えかたです。
(1) 花形 (star)
(2) 金の成る木 (cash cow)
(3) 問題児 (problem child)
(4) 負け犬 (dog)
市場の成長率は、市場全体の年間の成長率です。「高い・低い」 を判断する基準として、GDP の年間成長率 (あるいは、それよりも若干高い数値) が使われるようです。相対 シェア を考えることもあるのですが、相対 シェア は、最大の競争相手の シェア に対する比率で、「高い・低い」 を判断する基準は 「1.0」 です。
PPM では、「市場 シェア」 の観点から、「花形、金の成る木」 は高くて、「問題児、負け犬」 が低いとされ、「市場成長率」 の観点から、「花形、問題児」 が高いとされ、「金の成る木、負け犬」 は低いとされます。したがって、「戦略」 として、「花形、金の成る木」 に対して 「維持」 を考えて──「金の成る木」 は、「収穫」 を狙い──、「問題児」 に対して 「拡大」 か 「撤収」 を考えて、「負け犬」 に対して 「撤収」 を考えるということになるでしょう。PPM は、非常に簡明な考えかたなのですが、逆に言えば、「単純すぎる」 ということにもなります。というのは、シナジー 効果が配慮されていないから [ Advanced Learner's の 「シナジー 効果」 を参照されたい ]。
なお、ポートフォリオ 計画を考慮するためには、複数の事業を SBU (Strategic Business Unit) として識別していなければならないでしょうね。ひとつの SBU は、以下の点を特徴とします。
(1) 独立の ミッション がある。
(2) 独立の競争相手がいる。
(3) 独立の戦略計画を作成する。
(4) 経営管理者がいる。
SBU は、1つの事業部であることも複数の事業部であることも、1つの事業部のなかの 1つの製品 ライン であることもあり得ます。ホッファー=シェンデル によれば、ポートフォリオ のなかの少なくとも 50% の SBU と競争している相手を全社 レベル で扱い、少数の SBU しか競合していない相手は事業 レベル で扱うとされています。
ホッファー=シェンデル によれば、「戦略的撤退」 は、迅速におこなわれるべきであるとのこと。というのは、以下のような撤収反対論が、つねに、出てくるとのこと。
(1) われわれが今日あるのは、その製品 ライン のおかげでる (企業の起点である)。
(2) その製品 ライン は (収益性が低いかもしれないが) 社会的に必要である。
製品と市場の関係 (再編成) として、以下の 2つの戦略があります。
(1) 既存の 「製品-市場」 を中心とした拡大戦略
(2) 新しい 「製品-市場」 の枠組みを編成した多角化戦略
アンソフ によれば、成功を決める要因は、個別の事業の効率性にあるのではなくて、それぞれの事業の組み合わせの善し悪しにあるとのこと。
(1) 「現在の製品-現在の市場」 → 市場浸透戦略
(2) 「現在の製品-新しい市場」 → 市場開発戦略
(3) 「新しい製品-現在の市場」 → 製品開発戦略
(4) 「新しい製品-新しい市場」 → 多角化戦略
市場浸透戦略では、販売促進・流通 チャネル の再編成が図られ、市場開発戦略では、市場細分化・地方市場から全国市場への拡大・輸出市場への拡大が図られ、製品開発戦略では、新素材の使用・製品機能の充実拡張が図られ、多角化戦略では、水平的 (コラボレーション など)・垂直的 (SCM など)・集中的 (コア・コンピタンス など)・集成的多角化が図られるようです。