2004年 5月 1日 作成 グローバル 戦略 >> 目次 (作成日順)
2008年 8月 1日 補遺  

 

 
1. 多国籍企業の意義

 (1) 多国籍企業は、以下のように定義されている(国連、1984年)

   - 2 つ以上の国のなかに、独立した法人を所有する。
   - 1 つ以上の中枢機関(意思決定機関)が経営する。
   - 所属する法人が資本所有などの形で結ばれていて、知識・資源・責任を共有する相互関係にある。

 
 (2)海外投資をする動機には、以下の点がある。

   - 原材料・エネルギー を獲得する。
   - 新たな市場を開拓する。(注1)
   - 生産 コスト が低い生産拠点を獲得する。
   - リスク を横断的に分散する。(注2)

  (注 1) 「大量生産-大量販売」 形態を維持するために規模の経済性を実現する。
  (注 2) 例えば、日本の売上減は米国の売上増で補填できる。ただし、逆機能もある。例えば、為替変動など。

 
2. 多国籍企業には、以下の 4つの形態がある。(参考)

   - インターナショナル 企業 (アメリカ の企業に多い)
   - マルチナショナル 企業 (ヨーロッパ の企業に多い)
   - グローバル 企業 (日本の企業に多い)
   - トランスナショナル 企業

 
3. インターナショナル 企業には、以下の特徴がある。

   - 海外事業を 「遠隔地の前線基地」 と考える。
   - 本社は、海外に営業所を備えた国内企業である。
   - 経営戦略の基本路線は、「(本国での) 技術革新」 にある。

 
4. マルチナショナル 企業には、以下の特徴がある。

   - 国ごとにちがう経営戦略を採用する。
   - 海外支店の経営者は独立的な企業家である (現地の人材が経営者である)。
   - 国ごとの マーケット に対する適応力は強い。
    しかし、経営資源の共有ができないので、効率を低下する危険性がある。
   - 経営戦略の基本路線は、「差別化」 にある。

 
5. グローバル 企業には、以下の特徴がある。

   - 世界共通市場の製品を扱い、本社の工場が世界向けに生産 (R&D と製造) する。
   - 選好の標準化を狙っている。
   - 経営戦略の基本路線は、「効率化」 にある。

 
6. トランスナショナル 企業には、以下の特徴がある。

   - 資源と経営は、(効率と適応性を同時に実現するために) 国々に拡散されている。
   - 拡散された資源は、世界規模の ネットワーク 網を使って運用される。

 
(参考) この 4つの形態は、以下の文献をまとめた。

 MBA の グローバル 経営 [ TRANSNATIONAL MANAGEMENT ]、
 クリストファー A. バートレット、スマントラ・ゴシャール 共著、梅津祐良 訳、
 日本能率協会 マネジメントセンター、1998年。





[ 補遺 ] (2008年 8月 1日)

 本 エッセー では、「多国籍企業」 の種類を まとめてみましたが、企業活動は、近年、「多角化」 や 「グローバル 化」 を特徴にしています。

 「グローバル 化」 の原語は、「グローバリゼーション (globalization)」 で、個人生活や法人事業が行為範囲を拡大して──テクノロジー が進化するにつれて、「時間・空間」 の制限が排除されて──、world-wide で営まれるようになったことを意味する語です。この語が最初に使われたのが いつ頃なのかを調べていないのですが──たぶん、The web に掲載されている情報や、書物を丁寧に調べれば追跡できると思うのですが、いま、語源を争点にしている訳ではないので、そこまで追究するのを止めておきますが──、12年前 (1996年) に、リヨン (フランス) で開催された サミット で、この語が キーワード になったことを私は記憶しています。特に、「グローバル 化」 のなかで起こった様々な問題点──たとえば、「発展途上国の貧困」 とか 「環境破壊」 など──が争点になっていました。

 「グローバル 化」 は、企業活動に限っていえば、「企業内貿易」 「移転価格」 が キーワード になるでしょうね。
 「企業内貿易」 は、同じ企業のなかで (あるいは、ひとつの企業 グループ のなかで) 製品を融通しあうことですが、「多国籍化」 が進んで、近年の調査では、電気機器産業や輸送機械産業などの企業内貿易比率は、50%を超えているそうです。そのときに争点になるのが、海外子会社に製品を輸出するときの 「価格」 です──この価格を 「移転価格」 と云います。

 「移転価格」 は、事前に税務当局と企業間で幅を持たせた適正価格帯を取り決めておいて、実際の取引価格が、その範囲内であれば追徴されない しくみ になっています。もし、この しくみ が無ければ、高税率国から低税率国へ所得を移転して──あるいは、輸出製品の価格を不当に高く設定して、子会社の利益を減らして──、法人税の圧縮をはかることができます。アメリカ では、多国籍企業が早くから出現していたので、早い時期に (1928年に) 「移転価格税」 を内国歳入法で定めていました。それぞれの国が次第に、「移転価格」 に関する法を整備してきたのですが、世界共通の規約になっていなかったので、1979年に、OECD (経済協力開発機構) が ガイドライン を示して──そして、1995年に全面的に改訂して──、国際規約化を進めています。日本は、1986年に 「租税特別措置法」 のなかで、「移転価格税」 を導入しました。

 「移転価格」 に似た しくみ として 「タックス・ヘイブン」 があります。「タックス・ヘイブン」 とは、字義通りに 「税金避難地」 の意味で、税率が ゼロ (あるいは、著しく低い) 国・地域のことを指示します。企業の課税逃れに使われることもあるので、日本の金融庁は、指定した国・地域にある海外子会社について、その所得を親会社の所得と合算することを義務づけています。

 資金調達の観点では、「オフショア・センター」 という語があります。「オフショア」 と言うように、国内市場とは切り離した形態で、非住居者の資金調達を規制の少ない自由な取引として認める仲介市場 (センター) のことです。「オフショア・センター」 の形態は、以下の 3 つに類別できるそうです。

 (1) 国内市場との間で資金交流が自由で、両市場の諸規制が同等である。
 (2) 国内市場との間で規制上の格差があって、資金交流が遮断されている 「内外分離型」
 (3) 租税避難だけを目的にして設立された ペーパー・カンパニー が主体になっている 「タックス・ヘイブン 型」

 正確に言えば、(3) は 「金融市場」 ではないですね。日本でも、1986年 12月に、JOM (東京 オフショア 市場、Japan Offshore market) が設置されました──ちなみに、JOM は、「内外分離型」 です。JOM 設置当初は、外貨建てが 8 割近く占めていたそうですが、近年、円建てが 7 割を超えているとのこと。





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