[ 補遺 ] (2008年 9月 1日)
会社法は、商法で使われていた 「営業」 という用語を 「事業」 という用語に変えました。その変更理由は、会社のすべてが 「営利」 を目的として設立されているのではないから、とのこと。そして、この理由は、「経営存在目的と経営行為目的」 を意識しているのでしょうね。事業が経営存在目的であるならば、利潤追求は経営行為目的の ひとつであって [ したがって、すべてではないので ]──事業形態のなかで、その比率は高いのでしょうが──、利潤を追求しない経営行為目的もある──その典型的な例が NPO ですが──ということになるでしょうね。
私は経済学者ではないので、「経済人 モデル」 が マクロ 経済の動向を考えるうえで、どのくらい役立っているのかを判断することができないのですが、モデル という観点から言えば、最大限に抽象化された モデル (目的関数) を まず 作って、それから、その モデル に対して、その モデル が適用される範囲 (universe) を限って、制約・束縛 (制約条件) を付与する接近法が間違っているとは思わない──どうして、こういうことを言うのかといえば、「経済人 モデル」 と 「管理人 モデル」 の ふたつを比較して、「管理人 モデル」 のほうが 「経済人 モデル」 に比べて 「現実的だ」 というふうに 「『解体』 の虚偽」 に陥らないようにしてほしいからです。「『解体』 の虚偽」 というのは、集合に適用できる性質が、その元 (構成員) にも適用されると思いこむ虚偽です──たとえば、企業 A には技術力があるから、企業 A の社員の すべても技術力がある、と推測する虚偽です。逆に、「『合成』 の虚偽」 もあって、元 (構成員) に適用できる性質が集合にも適用できると思いこむ虚偽が 「『合成』 の虚偽」 です──たとえば、企業 A の それぞれの社員には技術力があれば、企業 A には技術力があると推測する虚偽です。ミクロ 経済を対象にすれば、「経済人 モデル」 は、たぶん、役立たないでしょう。それと逆に、マクロ 経済を対象にすれば、「管理人 モデル」 が役立つかは争点になるでしょうね。「集合は、集合としての性質をもつ」 という考えかたが形式的構成を作る前提です。「マクロ 経済学は現代の経済動向を説明できていない」 という非難を経済新聞で私は目にすることがあるのですが──私は、経済学者ではないので、その非難が正しいかどうかを判断できないのですが──、もし、「経済人 モデル」 という前提が機能していないのであれば、その モデル を改良すればよいのであって、経済学者たちは そうしているはずだ、と私は かれらに信を置いています。われわれ シロート は、往々にして、適用範囲・前提の違う モデル を比較して云々する傾向があるので注意しなければならないでしょうね。ちなみに、私は、大学院で会計学を専攻していたので、「経営 (ミクロ 経済)」 の観点に立って考える傾向が強いので、「管理人 モデル」 を範にしていますが。
私は、大学生の頃、マクロ 経済を 「サミュエルソン の経済学 (上・下)」 で学習しました。サミュエルソン 氏 (ノーベル 賞受賞者) は、かれの モデル を非難されたときに、以下のように言ったそうです。
「すべての事象に対して適用できないことは わかっています。では、他の代替案を示して下さい。」
蓋し、名言ですね。サミュエルソン 氏が ガルブレース 氏の著作に対して評した言を読んで私は 「学者の矜恃」 を感じました。ガルブレース 氏は、当時、著名な経済学教授で、難しい経済理論を われわれ シロート にも わかりやすく説明する力量が すぐれていたのですが、サミュエルソン 氏曰く、
「たしかに読みやすい。ただし、高校生向けの」。
第一級の学者が ほかの学者に対する評を さておいても、「ミーハー 本」 ばかりを読んでいれば、正確性を追究することが疎かになる危険性があります。「われわれ実務家は忙しいので、書物など読んでいる暇がないし、学問は ふだんの生活のなかでは ほとんど関係がない」 などという戯言を聞いたことがあります。そういう短絡的な考えかたをしていれば、たとえば、(経営存在目的と経営行為目的を ごっちゃにして、) 「事業=利潤追求」 という単純な等式しか思い浮かばないでしょうね。
マクロ 経済の観点に立って、「経済人 モデル」 を前提にすれば、企業 (法人) を ひとつの集合として考えて、その稼得資本 (利潤) を最大化する 「利潤目的」 のモデル を考えるのは妥当でしょうし、ミクロ 経済の観点に立てば、企業 (法人) には様々な個人 (利害関係者) が関与していて、利害関係者のあいだで (利潤の) 「分配 (配当、租税など)」 を配慮しなければならないので 「共同利益目的」 という点がでてくるという当たり前のことを覚えておけば宜しい。