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Like beating the air.

 
 1つの概念を、ほかの概念と対比すれば、理解しやすいことは、前回、述べました。そして、1つの体系は、以下の 3つの観点から検討すれば理解しやすいことを、以前 (2003年10月13日)、述べました。

 (1) 制度的な構造
 (2) 理論的な構造
 (3) 技術的な構造

 システム・エンジニアが、事業に関する知識を習得する際、まず、会計学を学習することを、以前 (2004年 3月11日)、勧めました。会計 (財務会計) は、企業が事業活動を外部に報告するレポートです。外部報告会計 (財務会計) は、以下の 2点の情報開示を目的としています。

 (1) 経営成績 (損益計算書の形で報告される)
 (2) 財産状態 (貸借対照表の形で報告される)

 以上の 2つは、「資源の運営」を報告しますが、ほかにも、「資金の運用」を報告するためのキャッシュフロー計算書が財務諸表の 1つとして提示されます。

 さて、商法の計算書類および証取法の財務諸表を、すべて、列挙することができますか。言い換えれば、法令が定めている外部報告会計の書類を列挙することができますか。そして、会計法令を、すべて、列挙することができますか。また、それぞれの会計法令のあいだに、どのような関係が成立しているか、という点を言うことができますか。
 法令は、実務を規制する きまり です。したがって、会計システムを作る SE が、会計法令を知らない、ということは言語道断でしょう。ちなみに、法令とは、立法機関が定める「法律」と、行政機関が定める「命令 (あるいは、省令・通達など)」があります。
 しかも、我が国の会計法令に影響を与えている国際会計基準も、「或る程度」、知っていなければならないでしょう。さらに、法令以外にも、会計慣行 (慣習) をまとめた--慣習のなかから、一般に公正妥当と認められた やりかた をまとめた--「会計原則」もあるので、それも知っていなければならないでしょうね。
 法令と慣習を知ってはじめて、会計システムの制度を理解することができるでしょう。

 会計は、「取引」を記帳して報告する体系です。
 したがって、会計上、「取引」として認知されるのは、どのような対象なのか、という点を知らなければならないでしょう。そして、認知された取引を、どのように計測するのか、という点を知らなければならないでしょう。
 会計の「理論的な構造」は、以下の3つの階から構成されています。

 (1) 会計公準 (あるいは、基礎的概念)
 (2) 会計原則 (あるいは、会計基準)
 (3) 会計手続

 会計公準は、会計の基礎概念 (前提) の枠組みを提示します。すなわち、会計が対象とする計算単位・計算期間・計算手段を示しています。たとえば、計算単位として、法的実体を基礎とするけれど、経済的実体を単位として連結財務諸表を作成するとか、会計期間として、1年ずつ区切った期間を会計年度とするけれど、半期・四半期にも財務諸表を作成するとか、計算手段として貨幣を使い、貨幣を使って計測できない対象は会計的事象にはならないし、貨幣の価値を使って計測するなら、物価の変動 (あるいは、時価) を考慮しなければならないし、円貨幣以外の貨幣を使っていれば、「換算」を考慮しなければならないとか。
 そして、会計公準を前提にして会計原則が導出され、会計原則を前提にして会計手続が導出されます。

 その導出体系を整えて、会計的概念を検討する作業が、「理論的な構造」の研究です。会計的概念として、資産や資本や負債や損益 (収益・費用) などの概念 (定義) を検討します。たとえば、リースしている物件 (購入したのではなくて借りている物件) でも、或る前提を満すなら、購入した物件と同じように扱って、「資産」として貸借対照表上に記載しなければならないし、将来、確実に起こりうる事象に関して、その原因が、当期に帰属するのであれば、「負債」として計上しなければならないとか。

 「技術的な構造」として、基本的な計算式は、以下の等式が使われています。この等式を会計等式と云います。

   資産 = 負債 + 資本

 資本は、基本的に、投下資本と、それを運用して得た稼得資本 (利益) から構成されるので、以上の会計等式は、貸借対照表のなかでの計算構造として、以下のように変形できます。

   資産 = 負債 + 資本 + 利益

 そして、稼得資本 (利益) は、損益計算書のなかで、以下のように計算されます。

   利益 = 収益 - 費用

 以上の計算構造は、複式簿記を使って、「仕訳」という形にして記帳されます。貸借対照表を使った利益計算と損益計算書を使った利益計算は、一致します。貸借対照表のなかで利益を計算する やりかた を「財産法」といい、損益計算書のなかで利益を計算する やりかた を「損益法」といい、「理論的な構造」を、そのまま、反映しています。すなわち、「財産法」に立脚した会計的思考のことを静態論といい、「損益法」に立脚した会計的思考のことを動態論といいます。従来は、[ 会計期間を区切って、企業努力 (費用) と成果 (収益) を対応することを目的にしていたので、測定対価主義を前提にした ] 動態論が盛んでしたが、新しい経済取引 (たとえば、デリバティブ取引とかリース取引とか) は、動態論では扱うことができないので、時価会計が、「個別会計」として導入されるようになってきました。
 なお、時価会計と時価主義会計は違うことに注意してください。時価会計は、あくまで、取得原価主義のなかで、時価を使って評価するということですが、時価主義会計は、すべての会計的事象を時価を使って評価します。ちなみに、国際会計基準は、時価主義会計への移行を宣言しました--日本は、時価主義会計への移行に対して消極的です。

 さて、上述したように、「制度的な構造」と「理論的な構造」と「技術的な構造」は、三位一体になっています。したがって、会計 (財務会計論) を学習するなら、いずれか 1つの領域に偏らないで、3つとも、均整に学習しなければならない、ということになります。複式簿記の技術を知っていても、会計を理解していることにはならないし、会計制度を知っていても、制度が変更されたら、その理由を的確に述べることができないでしょう。

 事業を対象としたシステムを設計するシステム・エンジニアは、(自らの専門技術のほかに、) まず、会計 (財務会計論) を学習してほしいので、以上の記述は、会計を例にしましたが、会計のほかにも、およそ、1つの体系を学習するなら、「制度的な構造」と「理論的な構造」と「技術的な構造」を網羅して均整に学習しなければならないでしょうね。実務家 (practitioner) は、「制度的な構造」と「技術的な構造」を重視しますが、往々にして、「理論的な構造」を軽視するようです--当然ながら、腕の立つ実務家は、これらの 3つを、すべて、習得していますが。

 「制度的な構造」と「理論的な構造」と「技術的な構造」に関して、的確な知識のない SE が、job-analysis と称して、クライアントの事業を聴取しても、時間の浪費 (waste of time) です。DFD は単なる作図作法であるし、UML も単なる記述作法であって、事業の中身を聴取するための技術ではない。

 
 (2004年 4月12日)

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