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I will not make my dishcloth my tablecloth.

 
 意味論は、記号と対象 (事物) とのあいだに成立する指示関係を調べて明らかにする。つまり、「x は y を指示する」という関係を調べて明らかにする。x は記号であり、y は対象 (事物) である。(注1)

 意味論と構文論とを切り離すことは、なかなか、むずかしい。
 ラッセルが提示したタイプ理論は、当初、意味論的なパラドックスと構文論的なパラドックスの2つを同時に扱って(注2)、それぞれ、意味論的にも構文論的にも、パラドックスを回避するように「タイプ(型、階)」を用意したが、ウィトゲンシュタインは、それを非難した。「論理哲学論考」は、ラッセルのタイプ理論に対するアンチ・テーゼであった。
 ラムゼーは、ラッセルのタイプ理論を、いっそう、単純にして、タイプ理論は、それ以後、(クラス概念といっしょに) 構文論のなかで使われるようになった。

 ゲーデルの「不完全性定理」は、タイプ論理を使って、形式的体系 (算術体系) が「完全性」を証明できないことを示した。ゲーデルの「不完全性定理」では、意味論的解釈と構文論的解釈の2つを導き出すことができる (164ページを参照されたい)。

 (1)意味論的解釈
  形式的言語Lが無矛盾であれば、Lの中の式が真でも、Lの中では証明できない。

 (2)構文論的解釈
  Lが無矛盾であれば、Lの中の式 Gについて、Gも ¬Gも、L の中では証明できない。

 
 数学基礎論の知識がなければ、上述した意味を理解できないかもしれないけれど、次のように、単純に考えてもよい。

 (1) 意味論は、指示関係のなかで、「真・偽」を問う。
 (2) 構文論は、体系 (公理系) の無矛盾性・完全性を問う。(注3)

 
 さらに、「メタ」概念が導入されると、なおさら、話がむずかしくなる。
 たとえば、タイプ理論を前提にして、「メタ(上位の階)」が「対象(下位の階)」を指示する際、タイプ0では、個体は、現実の事物との指示関係が判断しやすいが、タイプ2 (上位の階) とタイプ1 (下位の階) とのあいだに成立する指示関係のなかで、「真・偽」を調べることは、なかなか、むずかしい。(注4)
 タイプ0のなかで、真・偽を判断する一般手続き (真理値表) を提示したのがウィトゲンシュタインである--ただし、タイプ0という言いかたは、彼は認めないけれど。

 論理的意味論では、指示関係のなかで、「真・偽」を問うなら、以下の規則を、まず、提示しなければならない。

 (1) 生成規則 (許された文の形式を定義する)
 (2) 指示規則 (記述的定項--たとえば、個体と述語--を定義する)
 (3) 真理性 (「真」を定義する。)
 (4) 範囲規則 (与えられた文が成立する状態記述--真・偽--の集合を
    定義する)

 記述的意味論 (言語学的意味論) では、以上の規則を、「つよく」適用されない。というよりも、指示規則と生成規則は、どちらかといえば、構文論のなかで、考慮される。逆に言えば、モデルというなら、指示規則も生成規則も提示しないようなモデルはない。

 コッド関係モデルは、指示規則・生成規則として、「atomic な」属性値集合を対象にして、直積集合 (あるいは、「対の公理」と「空集合の公理」)を使い、「意味」は、「構造」に対する制約条件として、関数従属性と包含従属性を使って示される。コッド関係モデルは、「完全性 (relational complete)」が証明されたモデルである。

 意味論を信奉する人たちのなかに、構文論を軽視する人たちがいるが、意味論のみがモデルではない。たとえ、記述的意味論であっても、指示規則 (限られた領域での網羅性) と生成規則 (文の導出ルール、検証可能性) を提示していないなら、記述された構造に対して、無矛盾性と完全性を請け負うことができないし、「構造」と記述対象との指示関係を検証することもできないので、(モデルではなくて、) 作図作法にすぎない。
 単純に言い切ってしまえば、記述対象が様々であって、記述された構造が様々であっても、モデルには--およそ、モデルというなら--、(なんらかの) 「正規形(標準形)」を生成するルールがなければならない、ということである。(注5)

 データベース設計では--概念設計・論理設計では--、モデルという用語が使われているが--記述対象の性質から判断して、記述的意味論にならざるを得ないが--、極めて、曖昧に使われている。

 
 (2004年7月16日)

 
(注1)
 対象は、現実的な事物でないこともある。
 集合論的に言えば、「空集合」でもよい。つまり、集合として考えることができるけれど、その集合には、メンバーがない、ということである。たとえば、「幽霊」の集合など。

(注2)
 ここでいうパラドックスとは、カントールが提示した「集合論」のなかに起こったパラドックス (「自己自身をメンバーとする集合」という自己言及) のことをいう。
 パラドックスには、意味論的なパラドックスと構文論的なパラドックスがあることを、ラムゼーが明らかにした。

(注3)
 無矛盾性とは、「『A∧¬A』(A、かつ、Aでない) がない」ということ。
 完全性とは、証明可能性のこと。単純に言えば、いくつかの選ばれた公理を前提にして、形式体系L のなかのすべての式が証明できる、ということ。

(注4)
 意味論(メタ概念) のなかで、「L-真」という概念を提示した人物が、カルナップである。
 論理的意味論を語るなら、タルスキーとカルナップは、かならず、読まなければならない。

(注5)
 正規形 (normal form) のことを、標準形ともいう。
 正規形として、コッド関係モデルは、関数従属性を使った正規形を提示しているし、T字形ER手法は、(論理学の) 「主選言標準形」 [(p∧q)∨(p∧¬q)∨(¬p∧q)∨(¬p∧¬q)] を正規形としている。
 ただし、(¬p∧¬q)は、実地に作られるデータ構造として、記述の対象にはならない。

 ちなみに、正規形とパターンはちがうことに注意されたい。

 

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