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The goslings lead the geese to water.

 
 情報科学は、対象科学 (応用科学) の1つである。そして、事業過程 (購買・生産・販売・労務・財務) を対象にした手法--あるいは、手法を理論的に体系化した学問 (購買管理・生産管理・販売管理・労務管理・財務管理)--も、対象科学である。

 さて、事業過程をシステム化する際、論点になるのは、「事業過程を記述する (現状の記述と、改善案の提言)」作業は、情報科学として扱われるのか、あるいは、(エンドユーザが関与している) 管理過程のなかで扱われるのか、という点である。

 「事業過程を記述する (現状の記述と、改善案の提言)」は、原則として、エンドユーザ (および、マネジャー) が担当する。そして、彼らが作成したドキュメントを、情報科学向けの記法に変換して、コンピュータ化の前提とする、というなら、記法を変換すればよい。
 情報科学のなかで使われている記法が、(管理過程を無視して、) 事業過程を、直接に記述することは、本末転倒である。

 管理過程は、管理過程として、独自の体系を作っている。そして、その体系は、事業過程との相互作用のなかで、検証され、改善され、調整される (その相互作用は、ポパー氏の言う「あやまり排除」と云ってもよい)。
 企業が「継続企業 (going concern)」であるかぎり--あらたな事業に参入する、ということを除けば--、管理過程は、事業の歴史のなかで、継続的に、検証され、改善され、調整されてきた。もし、管理過程のなかに、「不備」があれば、かならず、事業過程との相互作用のなかで、フィードバック (feedback) される。

 ただ、管理過程は、事業過程との相互作用と同時に、それ自体が、自律性を生み出す。すなわち、すでに導入されてきた管理手法を起点にして、あらたな管理手法を生み出すこともある。しかし、この自律性は、事業過程との相互作用を無視するようになってしまうと、管理過程は、1つの制度として確立されているので--それ自らの生産性を向上する、という自己目的があるので--、「効果的 (effective、事業過程との相互作用)」であることを忘れて、「効率的 (efficient、管理過程自体の効率)」を追究するような間違いに陥ることも、ときどき、起こる。

 概念設計では、コンピュータ化の対象を調べて、情報の使いかたを調べる、というふうに云われているので、SEが、(事業過程を記述する) モデル手法に対して興味を抱く傾向にある、という点を小生は理解できないでもないが、管理過程を知らないで、事業過程そのものを記述できる訳がない。しかも、1990年代半ば頃から、管理過程は、(環境変化および法的改正のなかで) 大幅な修正を迫られた。
 そういう時代の流れのなかで、プログラマは、おそらく、不安を感じてはいない、と思われるが、SEは、そうとうに、不安を感じている、と想像できる。

 その不安を排除する1つの「気休め」は、モデル技法に熱中するか、あるいは、事業過程を、パターン化した体系を習得して、「事業過程に関して、知識がある」というふうに、自ら、言いくるめればよい (笑)。

 「情報」は--それが、コンピュータ・システムから出力されていようがいまいが、フォーマルであろうがインフォーマルであろうが--、データの集まりではない。「情報」は、或る目的を実現するために使われているのであり、その目的は、管理過程のなかで示されている。
 SEが、もし、概念設計に対して興味を抱いているのなら、まず、習得しなければならない知識は、管理過程に関する知識である。逆説として聞こえるかもしれないが、SEが不安を排除するためには、モデル技法を、まず、忘れて、管理過程に関する知識を習得したほうが良い。

 
 (2005年 1月 8日)

 

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