たとえ、「構文論」 のみを対象にして構造を考えたとしても、「意味論」 を考えざるを得ない理由は、妥当な構造には、いくつかの 「解釈」 が成立するからです (数学上、その点は 「レーウ゛ァンハイム・スコーレム の定理」 として証明されています)。
数学上、単純な例として引用されるのは、「Pappos の定理」 および その相対定理です。その定理を単純に言い切ってしまえば、射影幾何の体系では、「点」 と 「直線」 の意味を入れ替えて解釈しても、違いが生じない。興味のある人は、数学の文献を読んでみて下さい。
1つの公理系に対して、いくつかの意味を付与することができるというのは、形式的構造の弱みでもあり強みでもあるのでしょうね。というのは、或る構造 (A) の性質を調べるために、それと同じ文が成立する ほかの構造 (A') を作って、A' を調べて、A' の帰結を A に移すことができるから。モテ゛ル 作りでは、この やりかた が使われます。すなわち、「準同型 (homomorphism)」 を考えます。たとえば、型 N (自然数の体系) との初等的同値を考えるとか。この みごとな実例が ケ゛ーテ゛ル の不完全性定理でしょう。
さて、以下を考えてみます。
(1) コット゛ 関係 モテ゛ル は、完全性が証明されている。
(2) 意味論を導入した モテ゛ル T を考える。
(2)-1 モテ゛ル T では、項 (ただし、意味論的な対象) が定義されている。
(2)-2 モテ゛ル T では、項を使って、構造を作る文法が定義されている。
(3) もし、コット゛ 関係 モテ゛ル のなかで 「真」 として成立する文が モテ゛ル
T でも成立するなら、モテ゛ル T は コット゛ 関係 モテ゛ル を包摂している。
ただし、ここでやっかいな点は、(「モテ゛ル T は コット゛ 関係 モテ゛ル を包摂している」 というふうに綴っていますが、) 「同値」 であるとは言えない点です。というのは、モテ゛ル T のなかで 「真」 とされても、コット゛ 関係 モテ゛ル では 「真」 とされない文があるかもしれないから。すなわち、モテ゛ル T は、コット゛ 関係 モテ゛ル と同型ではないかもしれないということです。
関数従属性を使って構成される構造に対して、その構造のなかの同じメンハ゛ーを使って、ほかの構造を作る射 φ: |A| → |A'| があれば、変換の規約さえ導入すれば良いので--しかも、その変換が、A' の定義に矛盾しないのであれば--、整合性を崩さない。たとえば、以下を考えてみます。
A ├{従業員番号、従業員名称、...部門 コート゛ (R)},
{部門 コート゛、部門名称...}.
(aRb を関数従属性のなかで考えれば、「真」 である。)
A' ├{従業員番号、従業員名称...}, {部門 コート゛、部門名称...},
{従業員番号 (R)、部門 コート゛ (R)}.
(aRb を意味論を前提にして考えれば、「真」 である。)
ただし、以下の文は、A と A' では、「解釈」 が違う。
(部品番号 (R)、部品番号 (R)).
「解釈」 の違いを際立って説明するために、この構成のなかに アトリヒ゛ュート はないとします。この構成は、A では、部品 セット 上の射影として考えられて、セット ではないとされますが、A' では、テ゛ータ 構造として生成します。A と A' は 「同型」 ではないので、A' の この構成 (文) を A の初等的拡大として考えることはできない。しかし、この構成 (文) は、A' のなかでは 「真」 とされます。なぜなら、A' の文法に従って構成され、かつ、意味論上、事実的な 「F-真」(部品構成表) を示すから。
さて、部品構成表を 「導出」 される複合概念 (atomic な テ゛ータ を使って生成される情報) とみるか、それとも、1つの事実として考えるかは、モテ゛ル が前提としている 「哲学」 次第です。数学的構造としてみれば、A は ハ゜ーフェクト な モテ゛ル ですが、A に対する射が A' に存在しても、A' には、A では 「真」 とされない文がふくまれています。そのために、A' は A の初等的拡大ではないので、A を使って A' の完全性を証明することはできない。
ここまで読めば、A は コット゛ 関係 モテ゛ル であり、A' が TM であることをわかったでしょう (笑)。A に対して、意味論を強く適用して A' を作ったのですが、A' は A を使って完全性を単純に証明できないということになった点が、小生を悩ました最大の点でした。
TM は、以下の 3つを前提にした モテ゛ル です。
(1) entity を定義する。
(2) entity は、event か resource に類別される。
(2)-1 event を定義する。
(2)-2 resource は event の補集合とする。
(3) entity を項として、構造を作る文法を定義する。
そして、作図された構造は、多値の排除・周延を配慮しています。
aRb で、a および b を resource として、R を すべて event とすれば、TM の文法に対して完全性を証明することは簡単だったのですが、難点になったのが、TM の entity に関する定義では、R が ときには a や b の個体として認知されるという点でした。すなわち、R の部分集合として event が成立するので、構文論上、event のなかで、R と同じ演算--(R) の演算--をしなければならないという点でした。
作図された構造は、すべて、entity を起点にして文法どおりに構成されるので、構文論上、構造を完全に証明できます。ただ、意味論を導入したがために、構成表が妥当であるかどうかという点は、(コット゛ 関係 モテ゛ル の関数従属性あるいは、その初等的拡大を使うことができないので、) 「真」 概念として、事実的な 「F-真」 および 導出的な 「L-真」 を導入した次第です。したがって、作図された構造 (構成表) が、すべて、構文論上、証明できて、かつ、意味論上、「F-真」 を示す構成表を 「妥当な」 構造とします。そうしなければ、TM の無矛盾性・完全性を担保することができない。
(2006年 3月 1日)