私は、或る宴会で、大学の先輩と ひさしぶりに会って、すこしばかり立ち話を交わしたのですが、先輩が私の職業を訊いてきたので、「システム・コンサルタント です」 と私は応えました。そうしたら、先輩が、以下のように云いました。
「コンサルタントは、口 (くち) が達者じゃなきゃ、やれない職業だよな。」
んー、この言いかたには、なにかしら、コンサルタント像に関して、偏見があるようですね。私は、先輩の意見に対して反論しなかったのですが、やや、抵抗感を覚えていました。その抵抗感を的確に言い当てることができなかったので、そのときには反論しなかったのですが、先輩の言ったことがひっかかっていて、後日、その抵抗感を丁寧に考えてみました。
最良の コンサルタント というのは、たとえ黙っていても、その場にいるだけで存在感があって、ユーザが仕事を積極的に改善するように仕向ける コンサルタント ではないでしょうか。勿論、黙っていたら、コンサルタント として期待されている技術・知識を ユーザ に伝えることはできないので、技術を指導するに足る表現力は、コンサルタントとして具えていなければならないのですが、その表現力を超えた コミュニケーション は過剰な装飾であって、コンサルタント の使命から外れた振る舞いにすぎないでしょうね。というのは、コンサルタント の使命は、catalyst (反応を促進する媒体) であることだから、コンサルタント が主役 (リーダー) になる事態など起こってはならない。コンサルタントは、第三者であって、当事者ではないし、舞台の中央に立つ存在でもないでしょう。
第三者たる コンサルタント が 当事者たる ユーザ の 「代弁者」 として振る舞うように依頼されることもありますが--たとえば、エンドユーザ が現状を トップ・マネジメント に伝えるときや、逆に、トップ・マネジメント が エンドユーザ に 新たな戦略を伝えるときなど--、そのときでも、コンサルタント の役割は 「正確に事実を伝える」 ことであって、「ひとの感情をそそのかす」 ことはしない。
コンサルタント の表現力というのは、あくまで、「事実を正確に伝える」 力であって、もし、コンサルタント が雄弁であっても、雄弁であることは コンサルタント の職責から外れた評価点にすぎないでしょうね。口 (くち) が立つことは、コンサルタント の必要条件ではない。
(2006年 8月 1日)