本 ホームページ の 「思想の花びら」 (11月16日付) で、私は、A. フランス (小説家) の以下の ことば を引用しました。
表現法の新しさや或る芸術味などだけによって価値のあるものは、
すべて速かに古臭くなる。
この ことば は、コンピュータ 技術についても当てはまるでしょうね。逆に言うなら、芸術にしても学問にしても、「正統な・正当な」 やりかた が継承されるということでしょう。モデル (modeling) に関して言えば、モデル 理論を順守して (「正統な」 ということ)、「構造の妥当性」 と 「値の真理性」 を実現した (「正当な」 ということ) 技術でなければならないということです。
リレーショナル・データベース も オブジェクト 指向 も、1970年代に、学術論文は提示されていました。そして、それらの論文は、実地に使う技術 (プロダクト) として実現されてきました。リレーショナル・データベース に関して言えば、1970年代後半から 1980年代前半に、たとえば、ADR 社 (Applied Data Research Inc.) の DATACOM/DB が出てきて次第に改良され、オブジェクト 指向に関して言えば、Simula 言語が出てきて、1980年に、SmallTalk 80 が クラス 概念と オブジェクト 概念を搭載しました。
DATACOM/DB は、コッド 関係 モデル を、そのまま、プロダクト として搭載したのではなくて、「レコード・アット・ア・タイム 法を セット・アット・ア・タイム 法のように使う」 という設計思想で作られていました。すなわち、(データ の) テーブル 構成に対して、手続き型言語の COBOL を使って、(レコード 単位ではなくて、レコード のなかの データ 項目を いくつか構成した) ELEMENT 単位で アクセス して、かつ、indexing では、複数の テーブル を index-key を使って join するという作りでした。その作りかたは、当時の技術 (手続き型言語を使った レコード・アット・ア・タイム法) を活かしながら、RDB の弱点である traversal table を回避した やりかた でした。その すぐれた特徴を評価して、the Pentagon (The Department of Defense) が購入しました。当時、私が担当した--日本に導入普及した-- データベース が、DATACOM/DB でした。ADR 社は、その後、Ameritec 社 (ATT 社の グループ) に買収され、さらに、CA 社 (Computer Associates) に買収されました。DATACOM/DB は、コッド 関係 モデル を純粋に実現した プロダクト ではなかったのですが、当時、(基幹系の システム のなかで使用に耐える) 世界初の リレーショナル・データベース であったと言って良いでしょう。
私が、レコード・アット・ア・タイム 法を セット・アット・ア・タイム 法のように使う 「INDEX-only」 を着想したのは、DATACOM/DB が ヒント でした。
以前にも述べましたが、私は、まず、プロダクト としての RDB を学習して、そのあとで、コッド 関係 モデル の論文を読みました。そして、コッド 氏の論文を読んで、再び、実地の技術として DATACOM/DB を検討しました。その検討のなかで、TM (T字形 ER手法) が生まれました。
学問の知識を実地に適用するための工夫を つねに考えることが practitioner の職責の 1つです。
(2006年12月23日)