意味論には、「記述的意味論」 と 「論理的意味論」 の 2系統があります。
いっぽう、現実的事態と モデル との関係は--モデル を いかにして作るか という やりかた には--「オノマシオロジー」 と 「セマシオロジー」 の 2つの接近法があります。オノマシオロジー は、事実から 「語-言語」 を論じ、セマシオロジー は、「語-言語」 から事実的事態を検証する接近法です。
たとえば、「透明・無臭・無味で、飲むことができる液体」 が 語-言語の語彙 「水」 に対応するという接近法が オノマシオロジー で、いっぽう、「水」というふうに記される概念は、現実的事態のなかで、「透明・無臭・無味で、飲むことができる液体」 を指示するという接近法が セマシオロジー です。
「記述的意味論」 は オノマシオロジー 的接近法で (「事実 → モデル」)、 「論理的意味論」 は セマシオロジー 的接近法です (「モデル → 事実」)。
ただし、セマシオロジー では、「意味の歴史的推移」 も考慮しますが、ロジックでは、対象を 「項 (記号化された無定義語)」 として扱うので、「意味の歴史的推移」 を検討対象にはしない。
さて、TM (T字形 ER手法) は、「論理的意味論」 に属する モデル です。
論理的意味論では、モデル は、かならず、以下の 2つの規則を示さなければならない。
(1) 生成規則 (「妥当な構造」 を作る規則)
(2) 指示規則 (「真とされる値」 を実現する規則)
そして、それらの前提として、まず、「真とされる集合」 が定義されていなければならない。すなわち、論理的意味論では、モデル は、かならず、以下の手続きに従って作成されます。
(1) 「真とされる集合」 を定義する。
(2) 「真とされる集合」 に対して、生成規則を適用して構成する。
(構文論で作成する)
(3) 「構成」 に対して、指示規則を適用して検証する。
(意味論で推敲する)
生成規則は、ロジック の公理系を使います。したがって、「真とされる集合」 に対して、妥当な推論を適用して、「妥当な構成」 を作ります。生成規則に従って、無矛盾な構成になっている状態を (導出的な) 「L-真」 と云います。すなわち、「L-真」 は、構文論的な 「真」 です。言い換えれば、「妥当な構造」 を実現した 「真」 概念です。
次に、「構成」 が 「意味論的に 『真』 かどうか」 を検証しなければならない。たとえ、「構文論」 のみを対象にして構造を考えたとしても、「意味論」 を考えざるを得ない理由は、妥当な構造には、いくつかの 「解釈」 が成立するからです (数学上、その点は 「レーヴェンハイム・スコーレム の定理」 として証明されています)。
数学上、単純な例として引用されるのは、「Pappos の定理」 および その双対定理です。その定理を単純に言い切ってしまえば、射影幾何の体系では、「点」 と 「直線」 の意味を入れ替えて解釈しても、違いが生じない。興味のある人は、数学の文献を読んでみて下さい。
指示規則は、モデル 上の項が現実的事態のどれに対応していて、「真とされる値」 を実現しているかどうかを調べる 「真理条件」 です。項が事実と対応していれば、(事実的な) 「F-真」 とみなします。「F-真」 は、意味論的な 「真」 概念です。言い換えれば、「真とされる値」 を実現した 「真」 概念です。
およそ、論理的意味論に属する モデル であれば、上述した手続きを、かならず、守っているはずです。コッド 関係 モデル も、これらの規約を守っています。そして、TM も、これらの規約を守っています。
そして、論理的意味論は、その性質上、かならず、モデル 作成の規則を単純な 「一般手続き」 として提示できます--たとえば、コッド 関係 モデル の 「正規化手順」 とか、TM の 「関係文法」 とか。
ちなみに、、推論 p ⇒ q では、真とされる前件から、真とされる後件を導く無矛盾な手続きは、いくつも作ることができます。したがって、私が若いひとたちに期待したい点は、論理的意味論を前提にして、(コッド 関係 モデル や TM の) ほかの モデル を作ってほしい、ということです。
(2007年 9月 1日)