このウインドウを閉じる

The dress does not make the fair.

 

 2007年 8月23日付けの 「反 コンピュータ 的断章」 で、「私は、エンジニア として、みずからの間違いを正すことに吝 (やぶさ) かではない」 と綴りましたが--そして、その エッセー のなかで、私の間違いを訂正しましたが--、きょうは、私が 「赤本」 のなかで犯した他の間違い (「赤本」 175ページ) を訂正します。同じような間違いは、以下の拙著にも見られます。

 (1) 「論考」 の 189ページ、199ページ。
 (2) 「黒本」 の 59ページ、81ページ。

 今回の訂正のなかで、「真」 概念に関して、「『(導出的な) L-真』 と 『(事実的な) F-真』」 を判断することが、--私の 「言い訳」 になるかもしれないですが (苦笑)--いかに難しいか、という点を考えてみましょう。

 「在庫」 を例にします。

 (1) 「F-真」 とされる対象

  (1)-1 倉庫 {倉庫番号、倉庫名称、...}.
  (1)-2 棚   {棚番号、...}.
  (1)-3 商品 {商品番号、商品名称、...}.

 (2) 「L-真」 とされる対象

  (2)-1 倉庫. 棚. 対照表 {倉庫番号 (R)、棚番号 (R)}.
  (2)-2 棚. 商品. 対照表 {棚番号 (R)、商品番号 (R)}.

 さらに、(2)-1 と (2)-2 を前提にして、以下の 「L-真」 を構成したとします。

    倉庫. 棚. 商品. 対照表 {倉庫番号 (R)、棚番号 (R)、商品番号 (R)}.

 争点になるのは、これらの対照表は、「F-真」 かどうか、という点です。

 「倉庫. 棚. 対照表」 では、棚の設置日を 「仮想できる」 ので、「F-真」 になるかもしれない。そして、ロジカル に考えれば、「倉庫. 棚. 対照表」 に対して、「商品」 を対応して、「倉庫. 棚. 商品. 対照表」 を作るでしょう。「倉庫. 棚. 商品. 対照表」 では、保管日を 「仮想できる」 ので、「F-真」 になるかもしれない。

 したがって、TMD (TM Diagram、T字形 ER図) では、「倉庫. 棚. 対照表」 と 「倉庫. 棚. 商品. 対照表」 が構成されても、「棚. 商品. 対照表」 は、構成されないかもしれない。

 さらに、倉庫番号の値および棚番号の値は、それぞれ、「一意」 である、としましょう。したがって、棚卸しの管理は、棚番号を使って 「実施できる」 とします。
 さて、そういう状態のときに、「棚卸し日、在庫数量」 は、以下のいずれの対照表に帰属しますか。

 (1) 棚. 商品. 対照表
 (2) 倉庫. 棚. 商品. 対照表

 じっくりと考えてみて下さい。[ 答えは、本 エッセー の最後で示します。]

 
 TM では、「経験論的な言語 L (物言語 [ thing language ])」 の規則を守って、以下の 2点を切り離して、モデル を構成します。

 (1) 妥当な構成
 (2) 真とされる値

 「妥当な構成」 は、TMD のなかで構成され、「真とされる値」 は、アトリビュート・リスト のなかに記述されます。棚番号の値が 「一意」 であるかどうか、という点は、TMD を作成しているときには検討されないで、アトリビュート・リスト を作成するときに確認されます。アトリビュート・リスト は、TMD を参照しながら作成されますので、TMD は、アトリビュート・リスト を作成している最中に推敲されます。

 実地の作図では、棚番号の付値を知っていて--あるいは、その値を知らないなら、値を確認して--、「棚卸し日、在庫数量」を、どの対照表に入れるか判断しているでしょうが、それでも、(TMD を作成して終わりにしないで、) かならず、アトリビュート・リスト を作成して下さい。TM を使っている人たちのなかに、TMD ばかりを重視して、アトリビュート・リスト を軽視している傾向があることを私は聞き及んでいますが、「妥当な構成」 と 「真とされる値」 は、モデル にとって両輪であり、しかも、たがいに相互作用して、それぞれを再確認するように迫ってきます。事業過程・管理過程のなかで、どういう対象が 「真 (F-真)」 とされているか という点は、よくよく、考えなければならない点です。

 
 なお、本 エッセー で示した対照表の 「F-真」 に関しては、「たぶん」、「棚. 商品. 対照表」 が 「F-真」 であって、「倉庫. 棚. 商品. 対照表」 は、制約・束縛を示す 「L-真」 になるでしょうね。「たぶん」 というふうに綴った理由は、もし、エンドユーザ が、倉庫番号を、全然、使わないで、棚番号のみを使って 「棚卸し」 をやっている、という前提であれば、という意味です。
 言い換えれば、エンドユーザ は、倉庫 コード という個体指示子 (認知番号) を使って 「倉庫」 が 「意味を持っている」 ことを示していながら、「倉庫」 を 「意味を伝える」 対象として使わなかった、ということです。本来であれば、「棚. 商品. 対照表」 は、「倉庫. 棚. 商品. 対照表」 に対する 「view」 であるはずなのに、「棚」 の個体指示子に対する付値が一意であるので、「棚. 商品. 対照表」 を 「F-真」 としている、ということです。この やりかた (「棚. 商品. 対照表」 を 「F-真」 とすること) を 「(文法から外れた) 慣用的な語法」 とみなすかどうか、、、難しい争点です。

 
 (2007年12月 1日)

 

  このウインドウを閉じる