今月 (2月)、拙著の新刊が出版されます。お読みいただければ幸いです。
新刊は、データ・モデル そのものを扱ったのではなくて、モデル の根底になっている数学基礎論・言語哲学の考えかた・技術を説明した著作であって、やや難しい中身になったかなと思っています。数学基礎論・言語哲学も非常に専門化していて、モデル を学習したいと思うひとが、モデル の根底になっている数学基礎論・言語哲学の技術を まず学習しようと思って それらの書物を読んでも、数学基礎論の専門的な数式を目の当たりにして たじろいでしまい、数学基礎論の学習を諦めてしまう危険性が高い。そして、数学基礎論を学習しないまま モデル を論じていれば、いつまでたっても、モデル は画法 (diagramming) の域をでないでしょうね。いまから モデル を本格的に学習しようと思っている人たちが そういう事態に陥らないことを願って、私は新刊を執筆しました。したがって、私は新刊を数学基礎論への梯子 (はしご) の役割として綴りました。
拙著新刊に綴られていることを すべて学習しなければ モデル を習得できないのかと問われれば、正直に言うなら、「そうです」 という返事になるでしょうね──否、拙著に綴られていることは 「基礎」 であって、モデル を正式に学習するのであれば、数学基礎論を さらに学習しなければならないというのが正直な意見です。
ただ、そういう学習は、モデル を専門にしている──モデル を作る──ひとがやらなければならない学習であって、モデル を使うひとは、そういう学習はいらない。モデル を使うひとは、拙著の第 1章・第 12章の ふたつの章のみを読んでもらえばいいでしょうね。ただ、モデル の学習を ちゃんとやったことのない人たちが モデル をいっぱしに語っているのを私は観てきて──しかも、モデル を ちゃんと学習してこなかったことを 「(数学基礎論の学習など) 実務では関係ない」 などと言い訳しているのを観てきて──怒りにも近い気持ちを抱いています。もう一度言いますが、モデル を使う人たちには、数学基礎論・言語哲学の学習はいらないけれど、モデル を作るひとが数学基礎論・言語哲学を学習していないというのは、まるで、ピアニスト が運指法を学ばないままに曲を弾いているような でたらめな やりかたです。
今回の著作を執筆するにあたって、多くの人たちから、「わかりやすい」 モデル の書物にしてほしいと言われました。私も、当初、そうするつもりだったのですが、そういう書物を綴る前に、まず、モデル に関する通俗化した謬見を叩き壊しておかなければならないという思いのほうが私のなかで強かったし、私自身が、もう一度──「論考」 とは べつの視点で──、モデル の考えかたを確認しておきたかったので、多くの人たちの依頼に反する書物になりましたが、数学基礎論への梯子として新刊を執筆しました。
今回の著作は、一言でいえば、モデル において以下の手続きを確認するために綴られた書物です。
「合意」 された認知 → 「L-真」 の構成 → 「F-真」 の験証
この手続きについては、本 ホームページ で、過去 2年ほど、いくども論じてきたので、ここでは説明を割愛しますが、今回の著作は、この手続きを 「関数」 の観点から検証した書物です。
数学的 モデル の争点は、この手続きの後半 「『L-真』 の構成 → 『F-真』 の験証」 です。そして、この手続きの前半 「『合意』 された認知 → 『L-真』 の構成」 が言語哲学の争点になる点です。前半 (ウィトゲンシュタイン の哲学を前提にした やりかた) と後半 (ゲーデル・タルスキー・カルナップ の証明を前提にした やりかた) を接続するために私が導入した やりかた は、単純に言えば、「実体主義的な個体に対して関係主義的な文法を適用する」 という やりかたでした。こういうふうに言い切ってしまうと かえってわかりにくいと思われるならば、拙著の新刊を読んでいただければ幸いです (笑)。
今回の著作で使った 「関数」 の考えかたでは──「L-真」 を構成する文法では──、コッド 関係 モデル が使った 「直積」 ではなくて、どちらかと言えば、「位相構造」 「順序構造」 を念頭に置いて、「閉包 (closure)」 「外点 (exterior point)」 および 「[ 一般帰納的関数を前提にした ] 特性関数(characteristic function)」 を使いました。すなわち、全順序になる特性関数を組める 「event」 を ひとつの閉包として考えて、その補集合のなかの ひとつの メンバー (resource の instance) を その特性関数に足したときに全順序が崩れることを示して──言い換えれば、resource は半順序ということですが──、ひとつの 「関数」 (関係文法) を使うのではなくて、全順序の特性関数と半順序の特性関数の ふたつの文法を用意しなければならないことを再確認しました。
さらに、「F-真」 の験証では、文法で構成された──すなわち、「L-真」 を実現した── event を現実的事態と対比して隠蔽・虚構・改竄がないことを 「T-文 (真理条件)」 で テスト する手続きにしました。「T-文」 とは、デイヴィドソン が タルスキー の真理条件を自然言語に拡張した テスト 文で以下の文です。
言明 'p' が真であるのは、時刻 t において、事態 p と一致するとき、
そして、そのときに限る。
以上を まとめれば、以下のように図式化できるでしょう。
(F-真)
┌──────────────────────────────────┐
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│ ┌───────┐ │
│ │ │ │
│ ─┘ └─ ↓
y (形式的構造) ← f ← x (語彙) ← 「情報」 ← 現実的事態
─┐ (L-真) ┌─
│ │
└───────┘
この図式が、今回の著作の基底をなす考えかたです。
そして、今回の著作を脱稿して感じた点は、この図式を次の著作では データ・モデル に適用して 「わかりやすく説明できる」 と自信をもったのですが、いっぽうで、ここを起点にして、さらに研究を進めて、次の著作──「モデル」 を 「わかりやすく」 説明した書物を執筆してほしいと多くの人たちから依頼されているのですが──も 「難しい」 書物になるかもしれないとも思っています (笑)。
(2009年 2月 1日)