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The first step is the hardest. (Proverb)

 

 Bloomsbury Thematic Dictionary of Quotations の セクション beginning のなかで、以下の文が私を惹きました。

    There is an old saying 'well begun is half
    done' -- 'tis a bad one. I would use instead --
    Not begun at all until half done.

    John Keats (1795-1821) British poet.
    Letter, 1817

 
 詩人の詩作を垣間見ることのできる ことば ですね。たぶん、芸術家の制作は そうなのかもしれない──私は芸術家ではないので、憶測の域を出ないのですが。「half」 という意味は、たぶん、「半 (なか) ば」 でもいいし、「あらまし (partly, greatly)」 でもいいかもしれない。キーツ 氏の云った事は、きっと、「ちゃんとした身拵え (準備、用意) が できていないなら、はじめてはいけない」 と事ことでしょうね。空砲を いくら撃っても的を射抜くことはできない。ここで私は ギットン 氏の次の ことば を思い出しました (「読書・思索・文章」、安井源治 訳)。

    準備に心をくばれ、
    進歩について、なおいっそう心せよ、
    その成果を仕上げよ。

 ギットン 氏の ことば は、キーツ 氏の ことば と、たぶん、同じ意味ではないかしら。創作において、霊感 (インスピレーション) の来臨を待っている訳じゃないでしょう。あたかも、霊感 (インスピレーション) に身を任せて作品が自然に生まれたような言いかたがされることもあるけれど、批評家たちが そういうふうに憶測しているのであって、天才的な作家であっても、作家のほうは周到に用意をして作品を作っているはずです、ドストエフスキー 然り、ヴァレリー 然り、ベートーヴェン 然り [ モーツァルト は異 (ちが) うようですが ]。天才的な霊感 (インスピレーション) の来臨──われわれの眼に そういうふうに見えるだけでしょう。そして、作家は、いかに苦しんでいても、創作に信頼を置いているはずです。

 私が天才たちの真似をするのであれば、「仕事で楽をしない」 という態度です。仕事が楽だと感じられるなら、私は自分が きっと自惚れていると思うことにしています。小林秀雄氏曰く、

    才能がある御陰で仕事が楽なのは凡才に限るのである。
    (「モオツァルト」)

 この 「凡才」 を 「小悧巧」 と読み替えてもいいでしょう。

 
 (2011年 6月 8日)

 

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