Bloomsbury Thematic Dictionary of Quotations セクション disability のなかで、以下の文が私を惹きました。
If there are any of you at the back who do
not hear me, please don't raise your hands
because I am also nearsighted.
W. H. Auden (1907-73) British poet.
Starting a lecture in a large hall
In book of the Month Club News, Dec 1946
W. H. Auden 氏は 20世紀最大の詩人の一人と評されていて、彼に関する情報は ウェブ で検索すれば豊富に入手できるので、興味があれば検索してみて下さい。ただし、彼の作品を読まないで、彼に関する 「評釈」 を読んで彼の作品を知ったつもりになるのは御法度です──私は彼の作品を読んでいないので、上に引用した文のみを材料にして感想を述べるに止めます。
さて、引用文──こういう ジョーク で講演をはじめる事を私は共感します。尤 (もっと) も、彼の様な有名人──しかも、ことばに巧みな詩人──が言えば ウケ るでしょうが、私の様な凡人が同じ事を言っても会場が白けるだけでしょうね。尚且 (なおか) つ、自分の弱点を ジョーク にして消してしまうというのは、そうとうな キャラ (人柄、人間味) じゃないと臭味が付くでしょう。「プレゼンテーション の技術」 というような ハウツー 本を読んだくらいでは真似のできない技芸ですね。引用文の中で also と綴られているので、nearsighted の他にも disability の性質を言及していたのかもしれない。ちなみに、able は、五官の身体的能力をふくめて常識的に能力として認められている状態であって adequate (任に耐えるだけの能力) と同じ意味に使えるそうです(*)。
上手な プレゼンテーション を聴いていて私が感じた事の一つは、ジョーク で始まって ジョーク で終わるか、あるいは ジョーク で始まって箴言で終わる形式が多い事です。ポール・ニューマン 主演の映画 「評決」 の中で、ポール・ニューマン が演じる弁護士 [ アルコール 依存症で弁護士としての ability を疑われる様な状態 ] が陪審員を説得する プレゼンテーション の中で締め括りとして言った言葉が私の耳に今でも甦る── YOU ARE THE LAW. (この文を一語一語 ゆっくりと噛みしめる様に発音してみて下さい、強烈な記憶として刻まれる文ですね、そして ポール・ニューマン の やや嗄 (しゃが) れた声 [ 弁護士として明らかに disability の一つでしょう ] が寧ろ セクシー に響いた。) 弱点の恩恵を蒙らない強みというものはないのではないかしら。強みが強みとして現れない時に弱点が目立つだけでしょう。
(*) 「英語類義語活用辞典」、最所 フミ、研究社出版。
(2012年 9月 8日)