Bloomsbury Thematic Dictionary of Quotations セクション Honesty の中で、次の文が私を惹きました。
Honesty is the best policy; but he who is
governed by that maxim is not an honest
man.
Richard Whately (1787-1863) British churchman.
Apophthegms
It is a terrible thing for a man to find out
suddenly that all his life he has been speaking
nothing but the truth.
Oscar Wilde (1854-1900) Irish-born British dramatist.
The Importance of Being Earnest, V
If you do not tell the truth about yourself you
cannot tell it about other people.
Virginia Woolf (1882-1941) British novelist.
The Moment and Other Essays
Honesty の意味は、freedom from deceit, cheating, lying, stealing, etc. です (Idiomatic and Syntactic English Dictionary)。我々が一生を通じて honesty であることは 土台 無理なことでしょう──なぜなら、我々が生活している社会というのは我々の一存で どうにかなるような組織ではないので、社会で生活するのであれば、我々の精神 (知・情・意) を他の人々の 精神 (および、社会習慣・社会制度) と調和しなければならない。天才 (あるいは、独裁者) であっても──完全なる原始人 [ 本能的意志で行為する原始人 ] でない限りは──、社会との調整・調和を免れ得ないでしょう。したがって、自分の精神に完全に忠実 [ 正直 ] である (honest である) ことは幻想でしょう。社会的には、他人に実害を及ぼさない程度の隠蔽・虚偽 (嘘) は、honesty の許容範囲とされているのではないか──そういう実害のない気軽な戯れは化粧の一つと思っていればいいのではないか。
間違った事をしたことがないと云う人は本人が思うほど賢くはないし、嘘を言ったことがないという人も賢くはないのではないか。嘘つきは、嘘をついたら、その嘘が露顕しないように帳尻をあわせるための良い記憶力をもっていなければならないという意味において賢いなどと私は言うのではなくて、嘘をつくには事実 (実態・実情・実相) を知らなければならないということを私は言いたいのです。その意味において、「自分自身に対して嘘を言う」 のが一番に たちが悪い。
[ 追記 ]
社会習慣・社会制度の制約束縛からの自由たる honesty(= integrity) について、「個性」 を中核にして 「本能的生活 (Impulsive Life)」 を思量した作家が有島武郎氏でしょう。その考察は彼の評論文 「惜しみなく愛は奪う」 (1920年) に綴られています──そして、その考えは、彼の小説 「カイン の末裔」「生れ出ずる悩み」「或る女」 に一貫して流れています。
「惜しみなく愛は奪う」 は、約 100年前の評論文ですが、我々が 「個性」 とか honesty を考える材料を与えてくれます。
(2018年12月 1日)