Bloomsbury Thematic Dictionary of Quotations セクション Loyalty の中で、次の文が私を惹きました。
A man who will steal for me will steal from me.
Theodore Roosevelt (1858-1919) US Republican president
Firing a cowboy who had applied Roosevelt's brand to a steer
belonging to a neighbouring ranch
Roosevelt in the Bad Lands (Herman Hagedorn)
引用文は、ルーズベルト大統領の ことば です──「私のために盗むような男は、いつか 私から盗むだろう」と。彼の brand (たぶん、この文では、家畜に押した 「焼き印」 という意味だと思う) を悪用した男 (a cowboy) を罷免したときに彼が言った ことば です。この引用文の 「意味」 は、諺 「獅子身中の虫」 に近いのかな──諺の 「意味」 は、獅子の身中に住んで恩恵を蒙っている虫が かえって獅子の肉を食って害を与えるという意味だけど、この諺の出所は 「梵網経」 なので、仏徒でありながら仏徒に害を為すということですが、Loyalty という文脈のなかでは 「忠誠・忠実であるいっぽうで、害を為す」 という意味でしょうね。
或る思想を熱烈に信奉している人が、その思想を世間に伝導するために色々と貢献するのだけれど、世間の人々を誘導するいっぽうで彼らを懐柔するために邪 (よこしま) な手立てを使い しかも それを悪いことだと思っていない (寧ろ、思想の普及に貢献していると思っている) あるいは その邪な やりかた を以て私腹を肥やしている──そういうことは世間でも ときどき 目にする、「虎の威を借る狐」 という様 (さま) でしょうね。こういう輩は、そのままにしておくと、後々 大きな害を及ぼす。こういう輩を黙認すれば、他の loyalty を示してくれている人たちに示しがつかない。だから、首切る。思想の普及に今まで貢献してくれてきていることには感謝しつつも、(「三国志」の例を引用すれば) 「泣いて馬謖を斬る」 ということでしょうね。私も、きっと そうするでしょう。規律をたもつためには、忠実な部下をも止むを得ず処分するのは リーダー (leader) の立場としては当然のことでしょう。
上役の言いなりになる yesman (あるいは、follower) は loyalty があるのかもしれないけれど、たぶん そういう人は上役の 「犬」 と呼ばれて周りの人たちから侮蔑されるでしょうね。上役の 「犬」 と呼ばれているからには、周りの人たちは、彼を 本来の意味では loyalty を体現しているとは思っていない、彼を単なる 「ごますり」 と見なしている。そういう yesman は、自分の保身のために自分を捨て、上役の言いなりになっているにすぎない。Loyalty には、「無私」 (私心がないこと) の精神が土台となっているのではないか。Loyalty について、私は、道元禅師に師事した懐奘禅師 (永平寺 2世) のことを直ぐさま思い起こします。懐奘 (えじょう) 禅師については、ここでは述べないので、ウェブ を ググ れば懐奘禅師についての簡単な略歴を入手できるでしょう──懐奘禅師について述べれば、この エッセー では説明が収まりきらないので割愛します。懐奘禅師は、道元禅師の年上でしたが、道元禅師に師事して仏法を継承して、道元禅師が亡くなられたとき卒倒された (彼は ショック のあまり気を失って倒れ寝込んだそうです)──懐奘禅師は、道元禅師から仏法を継承して、仏法と道元禅師に対する loyalty を見事に体現なさった。我が身を振り返れば、私には loyalty を きっと 体現することはできない、、、己れを捨身できるほどに (道元禅師に対して懐奘禅師が示されたような loyalty に等しいほどの) 「無私」 になることができない、「無私」 の精神というふうに我々は言うけれど そんな簡単なことじゃない。
(2021年11月15日)