Bloomsbury Thematic Dictionary of Quotations セクション Modesty の中で、次の文が私を惹きました。
If you want people to think well of you, do
not speak well of yourself.
Blaise Pascal (1623-62) French philoshopher and
mathematician.
Pensées, Ⅰ
Be modest! It is the kind of pride least likely
to offend.
Jules Renard (1894-1910) French writer.
Journal
I have often wished I had time to cultivate
modesty...But I am too busy thinking
about myself.
Edith Sitwell (1887-1964) British poet and writer.
The Observer, 'Sayings of the Week', 30 Apr 1950
Modesty の語義は、(褒めて)「控え目、謙遜」(the fact of not talking much about your abilities or possessions)。
引用文の 1番目の日本語訳は、「もし、あなたのことを人々によく思われたいのなら、あなた自身が自分のすぐれていることを自分で言わないことである」。 2番目の日本語訳は、「控え目であれ! そうすれば、無礼などのため他人の感情を害することがほとんど起こらない」。3番目は、「謙遜を養うための時間を持ちたいと私はたびたび願った、、、しかし、私は私自身について考えることに たいへん忙しい (ので、謙遜を養うことができない)」。
「控え目、謙遜」 というのは、年老いてはじめて自覚・実感できるのではないか。若い頃には、多少あるいは大いに自惚れて自己顕示欲が強いのが普通ではないか──もし、青年が謙遜して控え目であれば、寧ろ shy (恥ずかしがりの、内気な、臆病な) ヤツ と思われるのではないか。私は、70歳になろうとする今、私の生活を振り返ってみれば、40歳代半ばまで、自己顕示欲の強い自惚れた鼻持ちならぬ ヤツ だったと思う。ただし、そうであったことを悔いている訳ではない。自分の実力 (自分は有用の材であること) を証明しようと思っても、20歳代・30歳代は仕事を覚える修業期間であって他人と比べて ほとんど実績がない状態なので、他人よりも少しでも優位な点があれば己れの力を自ら吹聴し誇りたがるという心情は想像に難くない。青年が野心を抱いて伸びようとしているのを観るのが私は好きです。野心というのは人を動かす力でしょう。高い地位に昇りたいという意欲があるかぎり、われわれは自分の実力を駆使していくでしょう。野心というのは、成長に対するわれわれの共通のあこがれが特殊な形として顕れたにすぎないのではないか。1000年以上も前 (平安時代) に、才女が次のように言っています──「人には一に思はれずば、更になにかせん (世間には第一の人と思われたい。でなければ生き甲斐もない)」 (清少納言、「枕草子」)。
しかし、壮年期 (40歳代・50歳代) になっても、実績をのこさなかった人がもつ野心というのは穏やかではない。そういう人の野心というのは、仕事を欲する (意欲し計画し実践する) のではなくて、ただ できるだけ早く、上っ面にでも成功を見せようとする臭みが漂っているのではないか。こうなれば、もはや 落ち着いた仕事などは問題外となってしまう。壮年期をすぎて 猶 自惚れて自己顕示欲の強い人に対して、私は (若い頃にあれほど自惚れて自己顕示欲が強かったにもかかわらず) 「生理的な」 嫌悪感を覚えます。
「実るほど頭を垂れる稲穂かな」 という古い言い伝えがありますが、この言が実感となるのは老齢期 (60歳以上) になってからではないかしら。60歳を越えれば、仕事の実績を或る程度積んできているので学識も深まって、その学識の先 (前方) には もっともっと学ばなければならない膨大な知識の海があることを体感するでしょう。その体感 (実感) を覚えてはじめて、われわれは人柄・態度が謙虚になる。実績を積んできて60歳以上になっても自惚れているというのは、学習を怠っている人ではないか──「いとしも、物のかたがた得たる人は難 (かた) し。ただわが心のたてつる筋をとらへて、人をばなきになすなめり (えらそうなことを言っている人でも、所詮 自分の得意な領域のことを自慢して他人を軽蔑しているにすぎない)」 (紫式部、「日記」)。
ただし、謙遜している人たちのなかには、他人からの賞賛を嫌がるように見えているが、実は もっと褒められたがっている下心をもった ヤツ もいるようです──その下心は、褒められているときに一瞬、其奴の目に顕れているわ www.
(2023年 2月 1日)