私は富山県生まれである。（小学校６年生の夏まで、） 海辺の寒村で育った。
　19歳になって 上京する時、汽車の窓から日本海を観た。 冬であった。

　日本海は、私の 「原風景」 である。 冬の空 （そら） は、鉛色一色に垂れ込める。 その色調に応えるように、海は、黒く うねる。 空と海の境は定かでない。 荒い風が、吹きすさび、高波が、堤ぼうにぶつかって砕け、高々と、白く散る。

　冬の日本海は、喩えれば、「怒り」である。 「閉ざされた」者のみが感じることのできる「怒り」である。 春が訪れるまで、吠え続ける。 私の気力を象徴している。 そして、また、限りない寂寥も。

　
　（2004年 9月23日）