恋を失うとは、いったい、どういうことなのか。それは、自分の虚栄心を
崩されることではないか。恋の相手に自己の理想像を投射し、それ故に、
恋愛中は、ふたりとも (実は、相手などいない一人芝居であるが)、世間
とは隔離された状態のなかで充足することができるし、ついに、自らの投射
対象すなわち恋人を失ったときには、自分が期待し錯覚し、それ故に安心
できた 「自分自身」 を失うのである。失恋は、自己否定にほかならないのではないか。
「理想の自己」 を見失った現実の自分は、以前も今も変わらぬ事実に直面し、もはや、
理想郷を称える調べを奏でることができない。失恋の苦しみを感じるときは、
自分の心に正直に訊くがよい。失ったのは、自分の虚栄心なのか、それとも、
相手の存在なのかを。
(2006年 6月 1日)