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they will look and look,but not see (Matthew 13-14) |
実証精神というものは、物の見方とか考え方とかに関する
実証主義について私は哲学上の 「論理実証主義」 しか知らないので実証精神・実証主義を包括的に──すなわち、哲学の実証主義の潮流や、社会科学や芸術をふくめて──述べることはできないけれど、私が実証精神を強く意識して自らの思考法の立脚点にしているのは私の仕事上 [ (事業分析・データ 設計のための) モデル 技術を作る仕事上 ] そうしなければならないが故です。したがって、仕事を離れて、実証精神を私は むやみやたらに固守している訳ではない。ここでいう実証精神とは、小林秀雄氏が述べているように、「物を直に見て物から直に考える」 検証可能性 (経験的な テスト 可能性) を示唆する精神です。哲学上 「検証可能性」 は ウィーン 学団が提唱しました。しかし、それが経験的意味規準として不十分であることを ヘンペル 氏が指摘しました。ヘンペル 氏は、「検証可能性」 が不十分な点として次の点を指摘してきます──
(1) 制約が強すぎる。
「制約が強すぎる」 というのは、検証可能性が全称命題 (「すべて」 を言及する命題、たとえば 「すべての物質には、...である」) を排除してしまうので、数学上の全称命題は経験的に意味のない命題になってしまうということ。「論理的同値が成立しなくなる」 というのは、存在命題 (「いくつかの...が存在する」 という意味をもつ命題) は経験的に有意味であるけれど、存在命題の論理否定文は (ド・モルガン の法則に従えば) 全称命題になるので経験的に検証できない──すなわち、論理的に同値な二つの文は、同値であるにもかかわらず、一方は経験的に有意味な文であるけれど、他方は経験的に無意味な文になってしまうということ。検証可能性の欠点は ヘンペル 氏の指摘通りですが、現代の自然科学では (そして、社会科学の一部) では、実証 (検証可能性の付与) という手続きは確固たる礎 (いしずえ) になっているのではないか──すなわち、理論の無矛盾な証明 (導出的な真) と、理論が現実と一致していること (真とされる値が充足される事実的な真) が理論の二大要件としてもとめられているのは確かでしょう。この論点を更にすすめれば、プラトン 主義とか反 プラトン 主義の論点にまで拡大して私の手に負えなくなるので、この論点は ここで止めます。
全称命題は当然ながら単称命題 [個々の具体的な命題 ] を すべて包摂しています。そして、単称命題が検証可能であれば、存在命題が成立することになります。つまり、「全称ならば単称、単称ならば存在」 が成立するということ。数学は、全称命題・単称命題・存在命題のすべてを対象にしますが、我々の日常生活では、実証精神を重んじて丁寧に思考する人であれば、自らの意見を述べるときに、「全称ならば単称」 の推論を避けて 「単称ならば存在」 の経験的に確実な推論を使うでしょう。すなわち、我々が意見を述べるときには、「いくつかの...が存在する」(英語では、some..., others...) という言いかたになって、一部の例外的全称命題 (「すべての人間は、死ぬものである」 というような命題) を除いて 「すべての」 という言いかたはしないでしょう──しかし、大げさな言いかたとして、「すべての」 とか 「みんな」 という言いかたを故意に使うこともあるでしょうが、思考が軽率な人は全称を 多々 使う癖があるようですね。数学以外の領域であれば、そして適性な サンプル (標本) を母集団にすれば、(存在命題について) 「検証可能性」 を適用しても問題はないでしょう [ 反例が いくつか出てきても、確率の論点です ]。
私は、前回の 「反 コンピュータ 的断章」 でも述べましたが、思考するときには、つねに先ず 「前提 (対象の範囲)」 を見究めます。そういう態度が実証精神を養うのではないか。というのは、理論が どんなに抽象的に述べられていても、対象の範囲 (domain、universe) が明らかであれば、具体的な対象 (具体例) を引用すること [ 存在命題から単称命題を導くこと ] はできるでしょう。しかし、もっとも単純で、もっとも明瞭な理論 (あるいは、思想) こそ──いくつもの具体例が直に見つけられる場合こそ──もっとも分かりがたい理論 (あるいは、思想) ではないか。というのは、我々は うっかりすると、そういう単純明瞭な思想・理論を 「自明な (当たり前の)」 こととして見過ごし思考を停止してしまう。小林秀雄氏は、彼の他の評論のなかで次の文を綴っています (「イデオロギー の問題」)──
しっかりと自分のものになり切った精神の動きが、本当の |
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