200561

基準編-6 resource event

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2010516日 補遺

 

 

 「Resource event」 概念は、TM および TM’を構成する (定義として導入された) 公理である。
 TM および TM’は、以下の 2点を公理としている。

 (1Entity とは、認知番号を付与された対象である。
    認知番号として、「コード 体系のなかに記述されている管理番号」 を使う。

   Entity である = Df 認知番号を付与されている対象 (個体) である。

 (2Entity は、以下の 2つの範疇とされる。

   Event」 である = Df 性質として、「日付 (取引日)」 が帰属する。

   Resource」 である = Df Event」 以外の entity である。

 
 そして、それらを前提にして、「関係」 を記述する 「4つの文法」 が構成されている。したがって、「resource event」 概念は、TM (および TM’) の最大特徴である。ただ、「黒本」 のなかで、「resource event」 を判断する簡便法として、「○○する」 という動詞形を示したのは、いまとなっては、不適切だった、と思う。その簡便法が、世間では、「一人歩き」 して、「(resource event という考えかたは、すてきだが、) 名詞形・動詞形という判断法は、昔からある」 などという的外れな言いかがりを、ウェッブ のなかで、記述されているそうである。

 「黒本」 のなかでも、「○○する」 という動詞形は、簡便法であることを、はっきりと、注意しているし、この簡便法では、「resource event」 を、適切に判断できないという反証 (「分類 コード」) を示したし、簡便法を述べたあとで、的確な 「定義」──「event」 を判断するやりかたとして、time-stamping DATE) を使うこと──を記述している。或る手法について、意見を述べるのなら、その手法を、正確に、調べるのが、エンジニア として、誠実な態度ではないか。

 さて、「resource event」 概念は、当初、「マスター と トランズ」 という概念を起点にしていた (笑)──そして、その痕跡は、「実践 クライアント・サーバ データベース 設計技法」 のなかで、はっきりと述べられている。というのは、T字形 ER手法は、当初、(コッド 正規形を起点として生まれて、) キー 概念を重視していたし、どちらかと言えば、テーブル 設計技法の性質が強かった。「黒本」 では、次第に、テーブル 設計の領域を離れて、事実的対象を記述する「ER手法 (Entity-Relationship)」 の性質を打ち出しはじめたが、それでも、「参照 キー (reference-key)」 という用語を、いまだ、使っていた。「黒本」 は、いまだ、構文論 (文法) を重視していて、意味論的色彩が、次第に、出てきた過度期の体系であった。構文論としての性質を、徹底的に検討したのが、「論理 データベース 論考」 である。(参考)

 Resource event」 概念は、そもそも、コッド 関係 モデル の 「関数」 に対して、アンチ・テーゼ として考えた概念である。コッド 氏が、みずから、「関数」 を使えば、半順序が論点になることを述べていらしたので、それを起点にして、「並び」 が論点になる データ (「event」)──時系列として、並べられる データ──と、そうでない データ (「resource」) という性質を考えた。ただ、この考えかたは、詰めがあまい、と思う。というのは、論点を正しく定式するには、「2項関係のなかで、2項の並びが指示する 『関係の意味』 を問う」 べきである。Resource event」 を、「関係の対称性・非対称性」 という観点に立って検討できるようになったのは、「論考」 を出版したあとになってからである。「論考」 では、T字形 ER手法を、構文論の観点から検討したので、意味論の検討が手薄になってしまった。「論考」 を出版したあと、burn-out (燃え尽き症候群) に陥って、2年ほど、虚脱感・虚無感のなかで、なにもする気にになれず、引退まで考えていたが、2002年の終わり頃になって、事業を解析する技法として、T字形 ER手法を見直してみようと思い、いよいよ、意味論の観点に立って、再検証することになった。そのために、タルスキー氏・ウィトゲンシュタイン氏・カルナップ氏・クルプキ氏らの著作を、丁寧に再読して──ほかにも、フレーゲ氏・ラッセル氏・ホワイトヘッド氏・パース氏・ポパー氏らの著作を再読して、さらに、分析哲学の文献を、いくつか、読んで──、意味論の検討に取り組んだ。その過程で、モデル の ありかた を考え直すことができた。そして、「関係の対称性・非対称性」 とか 「個体指示子を起点する実体主義」 に関して、知識を増やすことができた。

 T字形 ER手法の技術そのものは、TM (および TM’) として整えられても、さほど、変化していないが、TM (および TM’) を正当化する概念として、「3つの世界観」 や 「個体指示子 (認知番号)」 や 「関係の対称性・非対称性」 や 「F-真と L-真」 などを、つよく導入することになった。そのために、TM (および TM’) は、意味論的性質を帯びるようになった。その根底になる概念が、「resource event」 概念である。

 
(参考)
 いまから振り返れば、「論考」 では、大きな間違いを、ひとつ、犯している──サブセット の階構成に対する検討では、詰めがあまかった。
 「論考」 では、サブセット の階構成のなかで、「区分 コード の交叉」 を認めてしまっている。個体が 「周延的」 性質を実現するのであれば、それの概念的構成である 「区分 コード の階」 では、交叉を認めてはいけない。「細分」 概念の検討が充分ではなかった。

 



[ 補遺 ] 2010516日)

 「個体 (entity)」 を 「resource event」 に類別すること、および 「resource event」 の定義は、いまでも変わっていない。「resource event」 に関して、「黒本」 以後、いまに至るあいだで変わった点は、「resource event」 の性質の説明法です。そして、それらの性質の説明法が変わってきたことに対応して、「関係文法」 の説明法も変わってきました。

 まず、「resource event」 の性質の説明法が どのように変わってきたかを以下に概説します。
 性質の説明法は、以下のように 3回ほど変わりました。

 (1) 関係の対称性・非対称性
 (2) 閉包 (基底)・特性関数・外点
 (3) ツォルン の補題 (全順序・半順序)

 「resource event」 の性質を 「関係の対称性・非対称性」 で説明した拙著が 「赤本」 です。勿論、「赤本 (『データベース 設計論』、2005年)」 を執筆する前から 「関係の対称性・非対称性」 を使っていましたが、「関係の対称性・非対称性」 を使った説明として正式版にしたのが 「赤本」 です。「関係の対称性・非対称性」 は、「関係文法」 において 「関数」 の性質を際立って扱って、個体に適用する 「関数」 を一つではなくて、二つ──「再帰」 を入れれば三つ──使うことを論じた立脚点でした。

 ただ、「関係の対称性・非対称性」 のみでは、「関数」 には そういう性質があるという説明になっても、「関係文法」 そのもの-の説明にならないので、「関係文法」 の説明を補強するために、「帰納的関数」 を使う──すなわち、「閉包・特性関数・外点」 を使う──ようにした拙著が 「いざない (『モデル への いざない』、2009年)」 です。

 「閉包・特性関数・外点」 を使った説明は、「event」 のための文法 (関数) および 「resource」 のための文法 (関数) を的確にしてくれたのですが、「event」 と 「resource」 とのあいだの文法 (関数) を もっと検討しなければならないことも再認識してくれました。「帰納的関数」 は、勿論、ゲーデル 氏の 「不完全性定理」 で使われた 「原始帰納的関数」 を起点にして生まれた・一般化された関数です。そして、ゲーデル 氏の 「不完全性定理」 が 「ツォルン の補題」 を使っていたことを私は知っていましたが、「いざない」 を執筆したときには、「ツォルン の補題」 そのものを それほど重視していなかった──私の思考は、「不完全性定理」 そのものの証明に向けられていました。

 ところが、「いざない」 を出版したあとで、忽然と、「ツォルン の補題」 を使ったほうが、「event resource」 に適用できる関数的性質を もっと単純に説明できることに気づいたのです。すなわち、「全順序と半順序」 の観点で 「event resource」 を説明したほうが わかりやすい──勿論、「全順序」 の関数は 「event」 に対して適用され、「半順序」 の関数は 「resource」 に対して適用される、ということ。

 いまでは、「event resource」 の定義および それらに適用する関数は、「全順序と半順序」 の観点で説明しています。そして、「event resource とのあいだで適用される文法」──言い換えれば、「全順序」 が適用される個体と「半順序」 が適用される個体とのあいだの文法──は、数学的 ソリューション ではなくて、哲学的 ソリューション になっています。その哲学的 ソリューション を与えてくれた説が ウィトゲンシュタイン 氏の説とホワイトヘッド 氏の説と パース 氏の説と デイヴィッドソン 氏の説です。





 

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