江戸時代 (裁判制度、中級編) >> 目次 (テーマごと)



 裁判 (奉行) の制度について、全般の概略を記述した史料・資料を記載します。

 次回は、「江戸時代 (全般、中級編)」 を記述します。



[ 読みかた ] (2007年 6月16日)

 「裁判」 に関して、私の興味は、式目・法度の法制度や奉行の組織制度よりも、実際に起こった事件と 「判例集」 に注がれています。裁判手続きには、以下の 2つがありました。

  (1) 吟味 (ぎんみ) 筋 [ 今でいう刑事裁判 ]
  (2) 出入 (でいり) 筋 [ 今でいう民事裁判 ]

 吟味筋は、「御用」 を前提にした糾問主義で、犯罪の事実認定は 「自白」 主義でした。自白を追及するために、拷問が用いられていました。自白が記録された文書を 「吟味詰り之口書」 といい、それを沙汰の言い渡しの際に述べることを 「口書読聞 (ちがきよみきけ)」 と云います。
 「逆罪」--主人・親に対して、従者・子が反抗して殺傷に及ぶ罪--は、最重刑とされて、二日晒・一日引廻・鋸挽のうえ磔の刑罰とされていました。

 出入筋には、本公事 (ほんくじ)・金公事 (かねくじ)・仲間事 (なかまごと) がありました。金公事は、文字通り、利息附きの金銭債権に関する争いで、本公事は、堺相論・水論や地所・家督に関する争いで、仲間事は、共同事業・無尽・芝居木戸銭・遊女揚代などの争いです。出入筋の訴訟が多かったので、訴訟を減らすために、金公事では、「相対済 (あいたいすまし) 令」や、貸借関係を反故にしてしまう 「棄捐 (きえん) 令」 --大名・旗本・御家人が札差から借りた金穀の返納を免除する法令--が出ていますし、本公事でも、「内済 (ないさい)」 が多かった。
 腰掛茶屋--裁判所の待合い所--が栄え、公事宿 (くじやど)--訴訟の補佐人--が、安永 3年 (1774年) には、約 200軒もあったそうです。ただ、子が親を訴えたり、従者が主人を訴えることは禁止されていました。

 荻生狙徠は、かれの著作 「政談」 のなかで、「賃借のこと」 に関して、以下のように綴っています。(参考)

    訴訟を裁くのは、人の争いをやめさせるための方法であるから、賃借に関する訴訟を裁くのも、
    これまた古代以来、政治上の要務であると、「周礼 (しゆらい)」 にも記されている。それにも
    かかわらず、相対ということにして裁判をしないのは、世の中を治める人がいないようなもので、
    もってのほかの間違ったことである。

 ちなみに、「忠臣蔵」 として知られている仇討ちに対する沙汰には、荻生狙徠の意見が取り入れられたようです。幕府当局が この事件に関して どのように対応するか苦慮した際に、幕府の諮問に答えて、「狙徠擬律書」 と題された意見書が上程されたと伝えられています。その意見書によれば、四十六士が主君のために敵を討ったのは、「公」 の法 (公権力の法の権威) に違反した 「私の論」 にすぎないので、「私論をもって公論を歪めるべきではない」 として、断固、罰するべきであるが、かれらが示した忠義を重視して 「侍の礼」 として切腹を命じるべきであると述べています。

 

(参考) 「荻生狙徠」、尾藤正英 責任編集、中公 バックス 日本の名著、中央公論社、
    447 ページ。引用した訳文は、尾藤正英 氏の訳文である。





 ▼ [ 式目・法度、事典 ]

 ● 将軍家御成敗式目、安永 7年開板

 ● 近世武家社会と諸法度、進土慶幹、学陽書房

 ● 図説 江戸町奉行所事典、笹間良彦 著、柏書房

 ● 江戸時代奉行職事典、川口謙二・池田 孝・池田 政、東京美術 (東京美術選書 33)

 ● 町奉行、稲垣史生、新人物往来社

 ● 拷問刑罰史、名和弓雄 著、雄山閣

 ● 刑罰の歴史、石井良助、明石書房

 ● [ 図説 ] 日本拷問刑罰史、笠間良彦、柏書房




 ▼ [ 判例集、事件簿 ]

 ● 江戸町奉行事蹟問答、佐々間長敬 著、南 和男 校注、人物往来社

 ● 江戸時代 犯罪・刑罰事例集、原 胤昭・尾佐竹 猛 解題、柏書房

 ● 江戸の犯科帳、樋口秀雄 著、人物往来社 [ 新人物往来社から新装版が出版されている。]

 ● 続 江戸の犯科帳、樋口秀雄 著、人物往来社

 ● 江戸店犯科帳、林 玲子 著、吉川弘文館

 ● [ 増補 ] 三くだり半 (江戸の離婚と女性たち)、高木 侃、平凡社 ライブラリー




 ▼ [ 賄賂、切腹、仇討ち ]

 ● 江戸時代の賄賂秘史、中瀬勝太郎、築地書館

 ● 切腹の歴史、大隅三好 著、雄山閣 BOOKS 29

 ● 敵討、平出鏗二郎 著、歳月社




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