2018年12月15日 | 「1.1 語彙と文法」 を読む | >> 目次に もどる |
我々 システム・エンジニア の仕事は、「事業を プログラミング する」 ことです──言い換えれば、事業 (経済的実態) を コンピュータ のなかに 「写像」 することが我々の仕事です。「写像」 とは、形式的構造 (「モデル」)を作るということです。コンピュータ のなかに形式的構造 (「モデル」) を作るためには、事業を写像するための 「関数」 を使います。 事業を或る範囲に (人為的に) 区切って、その範囲のなかでおこなわれている事業活動の モデル を作るには、写像関数 f と その 「項」 を定めなければならない。独りの SE が (あるいは、複数の SE でも) 事業を直に観て 「項」 となる対象を決めるというのは、土台 不可能でしょう。なぜなら、「項」 を定めるには、その事業を 「理解」 していなければならないので、多数の ユーザ がおこなっている日々の仕事を直に観て、独り (あるいは、数人の) SE が それらの仕事のすべてを 「理解」 できる訳がない。そして、SE が ユーザ の仕事を 「理解」 しようがしまいが、ユーザ は日々の仕事をおこなっている。SE の 「視点」 が仕事の 「意味」 を左右する訳ではない。ユーザ 同士は、仕事の手続き (生活様式、あるいは Frame of Reference) の土台の上に、「情報」 (ことば) を使って 「意味」 を伝達している──その生活様式を共有していない SE が ユーザ の使っている ことば に対して外側から勝手な 「解釈」 を付与してはならないことは、「意味を理解する」 ための大前提でしょう。 たとえば、「受注」 という意味を 「理解」 するには、受注の渦中に身を置いているということが絶対的前提です。「受注」 という 「意味」 を 「理解」 するためには、「受注」 のしかたを説明されたあとで、「受注」 の行為を実際にやってみて、事業過程のなかで期待されているとおりに行為 (反応・適用) できたならば、「受注」 を 「理解」 していることになるでしょう。しかし、SE が 「受注」 を実地に経験できる訳ではないし、そんなことを期待されている訳でもないでしょう。 したがって、ユーザ がおこなっている事業の 「意味」 を知るには、事業過程 (購買過程・生産過程・販売過程・財務過程・労務過程) を直に観て 「意味」 を探るのではなく、管理過程 (購買管理・生産管理・販売管理・財務管理・労務管理) に記述されている 「情報」 を分析するのが効率的・効果的です。なぜなら、正規の事業においては、「管理のない取引」 も 「取引のない管理」 もないのだから。 「情報」──たとえば、原帳票、ならびにコンピュータ が表示する情報 (受注入力画面、請求照会画面など)── は、数々の単語 (語彙) [「観察述語」 と云ってもよい ] から構成されています。それらの単語 (語彙) が 「項」 となります。ただ、「情報」 は、数々の単語が (或る規則に従って) 配置されています。しかも、ひとつの現実的実態 (たとえば、受注とか) に対して、それを管理する 「情報」 は 複数 生成されています (たとえば、受注入力画面、受注照会画面など)。 しかし、コンピュータ のなかに 「現実を写像する」 には、「情報」 を原資料にして作る モデル (現実の写像) では、現実の事態と 「1 対 1」 に対応するように形式的に組み替えなければならない。その形式的に組み替えた構造が 「正規形」 と云われる構造です。たとえば、リレーショナル・データベース の基盤となった E. F. コッド 博士の関係 モデル は、データ 「正規形」 の作りかたを示しています。コッド 関係 モデル は、「完備性 (completeness)」 が証明されています。TM は、「項」 については、コッド 正規形を 「ほぼ準拠」 しています。が、TM は、コッド 正規形と 一部 相違する点があります (それについては、後日述べます)。
(事業過程) (管理過程) 現実的事態 → 「情報」 → モデル (形式的構造) ↑ ↑ └───────────────┘「関数」 とは、(二項関係では) 「複数 対 1」「1 対 1」 の関係のことを云います──「1 対 複数」 は関数にならない。ひとつの現実的事態に対して、「情報」 は 複数 生成できます。たとえば、「受注」 という一つの事実に対して、受注番号や受注日や受注数は、受注入力画面にも受注照会画面にも、いくども表示されます。したがって、現実的事態と 「情報」 のあいだには、「関数」 を組むことができない。いっぽう、「情報」 と モデル のあいだの関係は、「複数 対 1」 であり、かつ、モデル と現実的事態のあいだの関係は 「1 対 1」 です。したがって、「関数」 を構成する (適用する) ことができる。モデル が対象とするのは、記号化された事態 (「情報 (記号列)」) です。 TM は、現実的事態 (事業) の写像関数 f を 「関係」 文法として示しました。関数を使いますから、当然ながら、構文論 (文法、あるいは記号演算) が先で意味論 (真とされる値の充足、かつ形式的構造が現実的実態の構造と一致すること) は後 (あと) になります。そして、ことば の 「意味」 (ユーザ が使っている 「意味」) とか 「解釈」 というような面倒なこと [ 曖昧な、恣意的余地があること ] を避けて、TM では 「真」 という ことば を一貫して使います。「真」 には 2種類 [「導出的な L-真」 と 「事実的な F-真」] あるのですが、それについては後日述べます。構文論が先で意味論は後、という接近法を論理的意味論と云います。 □ |
<< もどる | HOME | すすむ >> | |
目次にもどる |