2019年11月 1日 「5.1.1 論理法則」 を読む >> 目次に もどる


 記号論理学とは、概念・判断・推論を形成する諸規則を探究する学問です。記号論理学の云う 「論理の正しさ」 というのは、「推論の正しさ」 のことを云います──つまり、記号論理学は 「恒真 (トートロジー)」 を追究します。そして、「数学的な正しさ」 は、トートロジー が その体系内で証明できることを云います──この証明のことを形式的体系が完全性を実現していると云います。

 さて、私が記号論理学を はじめて学習したときに、次の論理式が 「恒真」 であるということが なかなか 頭に入らなかった。

    p → (p∨q).

 数学の学習を高校二年生で止めて いわゆる 「文系」 を選んだ文学青年 [ 私のこと ] が 30歳代になって記号論理学を はじめて学習したとき、上記の論理式が どうして 「恒真」 になるのかを疑問に思ったのですが、なんのことはない 「真理値表」 で検証すれば簡単に わかることです──記号論理学の入門書では、真理値表の例として p∧q とか p∨q とか p→q などの簡単な例しか記載されていないので、数学基礎論の書物を読んで p→(p∨q) が 「恒真」 として当たり前に扱われているのを目にして当時の私のような初心者は戸惑い、私は頭が悪いので数学 (数学基礎論) には向いていないと思い、数学を ますます嫌いになってしまう。しかし、ここで 「真理値表」 を応用すれば、なんのことはない至極簡単に わかることです。では、「真理値表」 を作成してみます [ 真理値表のなかで、T は true を表し、F は false を表します ]。

    p    q  p → (p∨q)
   ── ── ──────
    T  T     T
    T  F     T
    F  T     T
    F  F     T
 したがって、これは 「恒真」 です。

 なお、他の論理規則 (論理法則) については、「いざない」 を読んでください (115 ページ)。
 論理においては不意打ちはない、論理規則を使って記号化した命題 (論理式) を演算します。数学・論理学の記法で示された形式的構造は、自然言語の文法的構造と相違しています──数学・論理学の記法で構成する論理的構造を 「文の 『論理形式』」 と云います。命題を記号化してしまえば、あとは論理式を論理規則に従って記号演算するだけです。しかし、日常の言語表現を記号論理の表記に転化することは非常に難しい。その例を次に示します──

   1. 彼は セミナー をしに行き、かつ、私は彼と共に行った。
   2. 彼は セミナー をした後で帰宅して、かつ、私は彼と共に行かなかった。

 たとえば、次のように記号化したとします。

   p = 彼は セミナー をしに行った。
   q = 私は彼と共に行った。
   r = 彼は セミナー をした後で帰宅した。

 そうすれば、1. および 2. の文は次のように記号化できる。

   1. p∧q.
   2. r∧¬q.

 したがって、1. および 2. の複合命題は次のようになります。

   (p∧q)∧(r∧¬q).

 しかし、これでは矛盾 (q∧¬q) が起こって、この複合命題は偽になります。矛盾が起こった理由は、「行く」 が多義になっているからです── 1. の 「行く」 は 「参加する」 と意味で使われ、2. の 「行く」 は 「帰宅する」 の意味で使われている。様々な事態を記号化する時点で虚偽 (ここでは 「多義の虚偽」) に陥っています。虚偽には、そのほかにも 「曖昧の虚偽」「強調の虚偽」「合成の虚偽」「解体の虚偽」などがあります (拙著 「論理 データベース 論考」 61ページ)。

 なお、形式論理学が どうして わかりにくいのかという疑問を抱いている人 [ ただし、数学基礎論の素養がある人 ] は、次の書物を読んでみてください──

    「今度こそ わかる 『論理』 数理論理学は なぜ わかりにくいのか」(本橋信義、講談社)

 この書物は、「今度こそ わかる」 と云っているように、形式論理を かつて学習した人向けです [ 決して入門書ではない ]。形式論理を学習した人なら、この書物から たくさんの教示を得られるでしょう [ 私は、この書物から たくさんのことを学びました ]。 □

 




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