2020年 7月15日 「6.3 冠頭標準形」 を読む >> 目次に もどる


 本節では、冠頭標準形を説明していますが、その説明は とても短くて [ 1ページ の半分しかない ]、この説明を読んで冠頭標準形の意義 (significance) を わかる人は──数学基礎論を専門にしている人のほかは──いないでしょうね。だったら、そんな説明は省いてほしいと怒る人たち (システム・エンジニア たち) も きっと多数いるだろうということは私も重々承知していますが、冠頭標準形を省くのは 「論理」(数学基礎論) の最大の論点 [ 問題点 ] に言及しないことになってしまうので、それはできない、という悩みのなかで私が採った回避策は、本節の最後に綴った文 「数学の書物を読まないのであれば、『冠頭標準形』 の考えかただけ知っておけばいいでしょう」 ということを記述して 「冠頭標準形が任意の述語に適用できる (任意の述語は冠頭標準形として記述できる)」 ということを強調して それ以上の説明はしないという策でした。私は、なにも もったいぶって 「任意の述語は冠頭標準形として記述できる」 ということだけを示して、それ以上を説明しなかった訳ではないのです (その理由を後述します)。

 「冠頭標準形を省くのは 『論理』(数学基礎論) の最大の論点 [ 問題点 ] に言及しないことになってしまう」 というふうに私が前述したのは、冠頭標準形は いわゆる 「ゲーデル の定理」 に関わっているからです──「ゲーデル の定理」 といえば、ふつう、ゲーデル の 「不完全性定理」 のことを云います。いっぽう、ヒルベルト は、集合論と全数学の無矛盾性の絶対的証明をするために、次の 3点を立脚点にした 「ヒルベルト の プログラム」 を示しました──

    1. 形式化 (公理や定理を記号を使って表現する [ 第一階の述語論理 ]

    2. 証明論 (数学的理論を一段高い観点から証明する [ メタ 数学 ]

    3. 有限の立場 (有限個の記号列を有限個の操作によって実行可能にする)

 
 これらの実現のために、ヒルベルト は、ベルナイス と共著で 「数学の基礎」 を執筆しました──そして、この著作には、冠頭標準形が オンパレード です! しかし、「メタ 数学」 は実現不可能であることが 「ゲーデル の定理」 で証明されたのです。なお、「数学の基礎」 に記載されている証明式のなかで、私は いまでも わからない式が いくつもあります (苦笑)。

 本節に至るまでに説明してきた量化記号の法則は、個体変数 (x, y,...) を束縛する法則でした。しかし、個体変数だけにかぎらないで、述語変数 (f, P,...) に対しても全称・存在の量化記号を適用することも考えられます。個体変数に対する述語論理を 「第一階の述語論理」 と云い、述語変数に対して量化を適用した述語論理を 「広義の述語論理」 と云います。たとえば、数学的帰納法の公理を考えてみます── y が x の次の数であるとして [ S (x, y) と記述するとして ]、後続関係を論理式で記述すれば次のようになります(注)

    [ P (1) ∧ ∀x ∀y { P (x) ∧ S (x, y) → P (y) } ] → ∀x P (x).

 この論理式のなかで、P について全称記号をつけなければ [ ∀P にならなければ]、法則 (公理) としての帰納法にならない。しかし、この広義の述語論理に対しては、完全な公理系は存在しないことが証明されています──その証明が 「ゲーデル の定理」 です。自然数の公理系 (数学的構造)は、N (ペアノ の公理系) があって、第一階述語論理の公理系には PM (ラッセル・ホワイトヘッドの 公理系) や H (ヒルベルト・ベルナイス の公理系) があるけれど、広義の述語論理では、必要な定理をすべて導くような公理系は存在しない、ということ。そして、「ゲーデル の定理」 を起点にして、計算可能関数 (一般帰納的関数) が提示され、コンピュータ が誕生することになった──「ゲーデル の定理」 は、われわれの職場を創ってくれた故郷 (ふるさと) なのです。ただ、そこまで踏み込んで説明しはじめると、数学 (数学基礎論) そのものの話になるので、数学の シロート である私には任が重すぎて [ 私の才量では無理なので ]、冠頭標準形の説明を ほぼ省いたわけです。ご了承のほどを。

 
(注) この式は、銀林 浩 氏が 「現代 数学教育事典」(明治図書) のなかで示しています [ 56ページ ]。

 




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