2020年 8月 1日 「7.1.1 壊れた コップ」 を読む >> 目次に もどる


 「集合」 については、「いざない」 の第 2章 (「2.1 集合」) で すでに述べています。そこでは、「集合」 の定義 そして (素朴集合論の) パラドックス と公理的集合論を述べています。本節では、「集合」 を もう少し原点に遡って、「集合」 という考えかたが どうして生まれてきたのか、そして その考えかたが数学に与えた影響を述べています。

 集合論を最初につくったのは カントール ですが、カントール の集合論に先立って ボルツァーノ は 「壊れた コップ」 という比喩を使って 「集合」 を説明しています (その説明については、「いざない」 を読んでください)。ボルツァーノ が着目したのは、「壊れていない コップ と壊れている コップ は形 (構造) がちがうけれど同一の物質からできている、──そして、モノ の 「構造 (構成)」 とは無関係に定まる概念を 『集合』 と名づける」 という点です。つまり、「集合」 とは、「構成 (それぞれの成分の相互関係)」 を度外視して、おのおの の成分を集積した概念である、ということです。その考えかたを さらに進めたのが、カントール の 「『点』 集合」 です。

 「直線は、小さな点が数珠のようにつながった物」(ピタゴラス) というふうに──「有限の線分は、有限個の点があつまった物」 というのは自明のことであると──考えられてきましたが、約分できない数 (非通約量) の存在によって、この考えかたでは説明がつかない。そこで カントール が考えたのは、「線分は 『大きさのない』 点の無限個の集まり」 という概念の導入でした [ これが カントール の 「『点』 集合」 です ]。「大きさのない」 点!?──われわれ数学の シロート には、なんのことか さっぱり わからないのですが、そういうふうに考えるほうが なにかを分析するときに とても役に立つので、カントール の集合論は その後の数学に多大な影響を及ぼしました。

 私は数学の専門家ではないので、集合論が数学に どれほどの影響を及ぼしたのかは わからないのですが、数学の専門家によれば、集合論以後の数学は つねに いちど 集合論に立ち返って再検討しなければならないほどに集合論は数学の 「革命」 だったとのこと。実際、20世紀最高の数学者のひとりと評されている ヒルベルト は次のように言いました──

    なんぴとたりとも、カントール が創設してくれた楽園から、我々を放逐することはできない。

 ヒルベルト は、彼の著作 「幾何学基礎論」 のなかで、3種類の集合 (点、直線、平面) を扱い、集合論を使って ユークリッド 幾何学の体系を作り直しています──モノ を記号化して 「集合」 をつくって、モノ を 「無定義述語」 として扱っています。「集合」 は 「構成」 の起点です。ヒルベルト は、「構成」 のしかたを 「公理主義」 として樹立しました。「公理主義」 とは、すべての理論は厳密な公理的方法で構成すべきであるという考えかたです。この考えかたにとって集合論は好都合でした──「集合」 という概念を使えば、数学のなかに現れる対象 (数学的対象) を原子的な元の集まりに還元して分析できる。

 そして、当然ながら、モデル [ 形式的 (論理的) 構成物 ] の対象 (コンピュータ 演算の入力項、すなわち、数学的対象) にも集合論は役立ちます [ 不可欠です ]。 □

 




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