2021年 5月 1日 「10.1 恒真、恒偽、充足的」 を読む >> 目次に もどる


 「10.1 恒真、恒偽、充足的」 からはじまる第 10章は 10ページほどの少ない記述ですが、本書 「いざない」 の理論的基底をなす一番に重要な章です。本章で 「モデル」 の基礎概念を述べて、それを引き継いで第 11章(計算可能性)・第 12章(関数の役割、特に「閉包と外点」「特性関数」)へ展開します。その起点として私が選んだのが、いわゆる 「完全性定理」です。

 「完全性定理」 の正式な名称は、「論理学における述語計算の公理の完全性」 です。「完全性」 というのは、構文論的概念と意味論的概念が外延的に一致することを云います (その詳細は、次節 「完全性と健全性」 で述べます)。この 「完全性」 を知るためには、次の 3つの概念を先ず知らなければならない──

  (1) 恒真

  (2) 恒偽

  (3) 充足的

 「恒真」 というのは、「トートロジー」 とも云い、任意の [ all ] 変域の任意の [ all ] 値について 「真」 であるという意味です──単純に言い切れば、「つねに真である」 ということ。「恒偽」 とは、非充足的で、どの変域のどの値についても 「偽」 であるという意味です──単純に言い切れば、「つねに偽である」 ということで、値が充足的でない (すなわち、値が充足されない) ということ。「充足的」 とは、或る変域の成る値について (適当な代入値をとれば) 「真」 になるということ。「充足的」 というのは、或る集合 (あるいは、多項式) が存在していて──ただし、その集合は 「空でない」 とする──、その元 (a1, a2,・・・, an) を変数 (x1, x2,・・・, xn) に置換すれば、条件 ψ を充たす元が、それぞれ、少なくとも 1つ存在するということなので、それを論理式で表せば──

    ψ (a1, a2,・・・, an) ⇄ ∃x1, ∃x2,・・・, ∃xn ψ (x1, x2,・・・, xn).

 そして、この論理式を充たす値が すべて 「真」 であるとき──ただし、ψ ⇄ ¬ψ が 「充足的でない」 こと (そして、ψ ∧ ¬ψ が起こらないこと) を前提とする──、「恒真」 と云い、論理式で表せば──

    ψ (a1, a2,・・・, an) ⇄ ∀x1, ∀x2,・・・, ∀xn ψ (x1, x2,・・・, xn).

 そうであれば、「恒真 (トートロジー)」 は 「充足的」 にふくまれる概念ですね。

 「完全性定理」 において、「完全性定理」 が云う述語計算とは第一階の述語論理のことを云い、「完全性」 とは 「述語論理の トートロジーは、述語論理の体系の中で証明可能である」 ということです──すなわち、「トートロジー (恒真) = 証明可能性」 であるということ。言い替えれば、「完全性定理」 では、意味論的な恒真性と構文論的な証明可能性は同値であることが証明されたのです。意味論というのは、記号の 「解釈」(変数のなかに値が充足された状態) のことを云い、構文論とは記号演算のことを云います。「完全性定理」 を文で説明してもわかりにくいので、記号を使って記述します。次の 2つの記号を覚えてください──

  (1) 意味論的な恒真 (トートロジー) を ⊩ で表す。

  (2) 構文論的な証明可能性を ⊢ で表す。

 それらを前提にすれば、たとえば、⊩ ψ というのは 「ψ は恒真である」 という意味で、述語論理の形式的体系 を T で表せば T ⊢ ψ は 「A は T で証明可能である」 ということを意味です。
 「完全性定理」 は、次のように簡単に記述できます──

    T ⊢ ψ ⇄ T ⊩ ψ.

 この式を文で表すならば、「述語論理の形式体系 T のなかで、ψ が証明できれば、ψ は恒真 (トートロジー) であり、かつ、その逆も成り立つ」 ということ──もっと単純に言い切れば、「定理」 の集合と 「恒真 (トートロジー)」 の集合は一致する (すなわち、「定理」 は 「恒真」 であり、かつ 「恒真」 であれば 「定理」 である) ということ。 □

 




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