2021年 8月 1日 | 「10.3.4 レーヴェンハイム・スコーレム の下降定理」 を読む | >> 目次に もどる |
「レーヴェンハイム・スコーレム の定理 (下降定理および上昇定理)」 は、「解釈」 (意味論) を論ずるうえで、中核となる定理です。私は、数学者ではないので、その定理の論文を直に読んではいないことを正直に告白しておきます──私は数学基礎論の入門書 数冊を読んで、この定理 (の結論だけ) を知っている次第です。 私は、「本質」 という語を なるべく使わないように意識してきました。私が 「本質」 という語を使うときは、他人の文を引用する場合 (他人が 「本質」 という語を使っている場合) か、あるいは その語を どうしても使わざるを得ない場合──たとえば、「ものの本質」 ということに対して皮肉を言う場合──に限られていて、そのときには括弧をつけて 「本質」 というふうに綴って注意を促してきました。というのは、スコーレム 氏の考えかは、noncharacterizability を根底にしていて、単純に言いきってしまえば──厳正を旨とする数学者たちに怒られるかもしれないのですが──「数学的概念に関して絶対的性質の記述は不可能である」 ということです。 スコーレム 氏は、「ペアノ の公理」 が第一階の論理において自然数を一意的に caterorize しない──言い替えれば、「ペアノ の公理」 は、「後続」 という operation を使って 「数」 を構成できるけれど、「数」 を 「構成できても、指示できない」 ので、「対象」 には成り得ない──ことを証明しました (1933年)。 私は数学基礎論の入門書を読んでいたいっぽうで、哲学の書物も読んでいました。当時 私が さかんに読んでいた哲学書 (言語哲学) は、クワイン 氏および デイヴィトソン 氏でした──クワイン 氏は 「翻訳の不確定性 (indeterminacy)」 を論じ、デイヴィトソン 氏は 「指示の不可測性 (inscrutablility)」 を論じています。クワイン 氏を読んでいて、彼は 「存在する」 ということは どういうことなのかを (形式化の過程において) 端的に述べていました──すなわち、「存在する」 というのは 「変項 (変数) に成り得る」 ことであると。 スコーレム 氏・クワイン 氏・デイヴィトソン 氏の考えかたを学んで、彼らの考えかたが相まって、私は次のように はっきりと意識するようになった──すなわち、指示対象は変移するので、文の 「解釈」 から独立して対象の 「指示」 ができる訳ではない、「指示」 は それぞれの 「解釈」 を免れる訳ではない、と。デイヴィトソン 氏は、そのことを次のように述べています──「指示」 は、「枠組み」 の総体を前提にした全体論的な 「解釈」 の内部 (from within) からしか確定できない、と。それを大ざっぱに言えば──またまた 数学者たちに怒られるかもしれないけれど──この考えかたは、フレーゲ 氏や ウィトゲンシュタイン 氏の 「文脈」 重視の考えかたに通じるでしょう。 スコーレム 氏・クワイン 氏・デイヴィトソン 氏の考えかたは、単純に言えば──またまたまた 数学者に怒られそうですが──モデル を離れて (すなわち、「解釈」 を離れて) モデルの外側に形而上学的な実存として 「(絶対的な) 真」 が存在している訳ではない、ということですね。だから、私は、「或る条件を満たしている (すなわち、モデル である) 対象が 「枠組み (すなわち、『構造』)」 を離れて 「本質」 を示す」 などということを信じなくなったし、「本質」 という語を使うことに対して慎重になった次第です。 ちなみに、上述した考えかたは、モデル TM の 「『関係』 文法」 において顕著に現れています。 さて、スコーレム 氏は、すべての理論を可算 モデル に還元しようとして、数学的概念の相対性を重視して、タルスキー 氏の真理論を糾弾していましたが (「レーヴェンハイム・スコーレム の下降定理」)、逆に タルスキー 氏は 「レーヴェンハイム・スコーレム の定理」 を前提にして、可算言語の文から成る集合を Σ とすれば 「Σ が或る無限 モデル をもつならば、Σ は任意の無限濃度の モデル をもつ」 ことを証明しました。これが 「レーヴェンハイム・スコーレム の上昇定理」 です。以上に述べてきた大略を読めば、勘の良い人であれば、可算集合 T について、「T のすべての 『有限部分集合』 が充足的であれば、T のすべては 『可算の モデル』 をもつ」 ということが言えるのではないか、と思ったのではないかしら。そして、その通りなのです www. それが 「コンパクト 性定理」 と云われている定理 (証明) なのです (その点については、次回 述べます)。 □ |
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