2021年10月 1日 「11.2 ゲーデルの不完全性定理」 を読む >> 目次に もどる


 私は ゲーデル の不完全性定理 (原文)を いくども読んでいますが、腹に入っていない (苦笑)──その定理の字面を追っているだけで、「わかった」 という実感をかんじたことが皆目ない。つまり、私は、ゲーデル の不完全性定理をわかっていないということを正直に告白しておきます。私は、文系の学生だった──数学など大嫌いで、高校二年生で数ⅡB の学習を終えてから、数学の正規の学習を 全然 していなかった(数学の試験では、100点満点中 6点という点数を記録したことがあるくらい数学の出来が悪かった)。そんな私が 歴史のいたずらで リレーショナルデータベース を日本に導入普及する仕事に就いて、コッド 論文を読まなければならなかったので、数学を学習しなければならなくなった。それまで数学の正規の学習をしてこなかった私が数学の学習をはじめても コッド 論文を読むためには数学を どのように学習すればいいかなど 皆目 わからなかった。それでも数学を学習しなければ コッド 論文を読めないので──というか、仕事ができないので──、私は手当たり次第に数学の書物を買ってきて学習をはじめました。その当時の学習の珍道中 (的外れな学習) について記述すれば面白いのですが、それについては本 ホームページ の あちこちに記述しているので、ここでは割愛します。ただ 一言だけ記しておけば、私が いわゆる「数学基礎論」(集合論と論理) の学習に狙いを定めることができた きっかけを与えてくれたのは、ウィトゲンシュタイン 氏の 「数学の哲学」 でした──その後、私の 「数学基礎論」 学習は軌道に乗った (その学習成果を報告した拙著が、「論理 データベース 論考」 です)。

 「数学基礎論」 の学習を進めて行けば辿り着く先は 「ゲーデル の定理」 です (「ゲーデル の定理」 と云えば、ふつう 「不完全性定理」 のことを云います)。勿論、現代の数学は、ゲーデル の時代の数学から進んでいますが、「数学基礎論」 という分野を作ったのは ゲーデル 氏であって、「数学基礎論」 を体系だって学習するのであれば、彼を起点にして学習するのが いちばんの近道でしょう。私が はじめて 「ゲーデル の定理」 を読んだとき──そのときには、「数学基礎論」 の 「基礎の基礎」 を 或る程度は習得していましたが──、証明法を 皆目 追跡できなかった。その痕跡は、拙著 「論考」 で記述した 「不完全性定理」 の説明を読めば、一目で わかる──「完全性定理」 の記述と 「不完全性定理」 の記述を比べれば、(「完全性定理」 を把握しているけれど) 「不完全性定理」 は消化不良になっている様が一目瞭然です。そして、その消化不良状態は、今でも続いています (泣)。

 私が 「ゲーデル の定理」 を習得するために読んだ書物は数多いのですが、それらの書物を今振り返ってみて、私が学習の底本にしているのは次の書物です (ゲーデル 氏の原文は除く)──

 (1) 「数学基礎論入門」、前原昭二、朝倉書店。
 (2) 「ゲーデル の世界」、廣瀬 健・横田一正、海鳴社。
 (3) 「数の体系と超準 モデル」、田中一之、裳華房。
 (4) 「ゲーデル と 20世紀の論理学 (全四巻)」、田中一之 編、東京大学出版会。
 (5) 「今度こそわかる ゲーデル 不完全性定理」、本橋信義、講談社。

 これらの書物のほかにも、「数学基礎論」 の入門書を数多く読んでいますが、それらのなかで私の学習に役立った書物については、拙著 「論考」 の第14章 「参考文献」 を参照してください──それらの書物のなかで、今でも 「ゲーデル の定理」 を学習するうえで参考にしている書物が上記の 5冊です (これらの 5冊は、読者のみなさんが 「ゲーデル の定理」 を学習するときに とても役立つと私は自らの学習を顧みて確信しています。ただし、これらの書物を読む前に、「数学基礎論」 の基本技術を習得していなければ これらの書物を読めないでしょう)。

 私が 「ゲーデル の定理」 の学習を続けてきて気づいたことは、世間で この定理について云われている俗説が いい加減であるということです──その一つが 「人間の思考には限界がある」 ということを ゲーデル は証明したというようなことが まことしやかに云われていますが、ゲーデル 氏の論文では そんなことは一言もいっていない、ゲーデル 氏の論文は、あくまで 自然数論上での証明です。「完全性定理」 では 「トートロジー (恒真) の意味論的完全性」 が対象にされていて、「不完全性定理」 では 「モデル (公理系) の構文論的完全性」 が対象になっています──それらの証明で明らかにされたことは、トートロジーを判断するための公理的手続きがあるけれど、無矛盾な モデル (公理系) には 「決定不能命題 (A も ¬A も証明できない命題のこと、独立命題とも云う)」 が存在するということでした。この二つの完全性を証明するときに使われた技術が 「モデル」 です。したがって、「不完全性定理」 を学習するには、「完全性定理」 も対にして学習したほうがいいし、それらの定理を学習するには前提として、ツォルン の補題、レーヴェンハイム・スコーレム の定理、ペアノ の定理、タイプ 理論を学習していなければならない。そして、ゲーデル の論文のなかで、ゲーデル 数の役割 (現代の コンパイラーと思ってよい) や自然数との対応 (ω-完全、ω-無矛盾) を使った間接証明を注意深く追跡しなければ、ゲーデル 氏の証明を追跡できない。

 私は、今でも 「ゲーデル の定理」 を わかっていない (その証明の字面を追っているだけで、「(証明を) わかった」 という実感がない)──だから、拙著 「論考」 のなかで、「不完全性定理」 の説明では ゲーデル 氏が彼の論文のはじめに提示した abstract を翻訳しているだけだし、拙著 「いざない」 では彼が証明のなかで使った重立った技術しか記述していない (私が自らの頭で彼の証明を咀嚼して まとめることができていない)。それでも、「ゲーデル の定理」 を学習した途上で知った いくつかの技術は、私が モデル TM を拡張するうえで、とても役立った──それらの技術の一つが次回述べる 「特徴関数 (特性関数)」 です。ちなみに、「決定不能命題 (独立命題)」 は、TM のなかでも現れます、それが 「対照表」 です (その詳細説明は、ここでは割愛します)。「ゲーデル の定理」 以後、「数学基礎論」 は めざましい発展を遂げています──「数学基礎論」 から コンピュータ も誕生しています。現代の 「数学基礎論」 は、高度に抽象化された数学としての分野と それを応用した コンピュータ の分野に二極化していて、コンピュータ に係わる仕事をしている システム・エンジニア が 「数学基礎論」 を学習しようと思っても、「数学基礎論」 の用語すらわからないというほどの状況に陥っています。しかし、少なくとも モデル を論じるのであれば、「数学基礎論」 を学習しておかなければならない。私は、「数学基礎論」 の 「基礎の基礎」 を学習しているのですが、苦労しています (苦笑)──それでも、単なる記法 (diagram) を モデル と称する愚行だけは犯したくない、私は これからも老体に鞭打って モデル 論を学習し続けるつもりです、「ゲーデル の定理」 が腹に入るまで。 □

 




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