2022年 1月 1日 「12.1.2 多値の『AND 関係』」 を読む >> 目次に もどる


 多値の 「AND 関係」 には、私は 6年間か 7年間ほど悩まされてきました──拙著 「T字形 ER データベース 設計技法」 (以下、「黒本」 と略) を 1998年に出版したとき、いわゆる one-header-many-details (以下、HDR-DTL と略) の データ 構造を整合的に説明できずにいて、その整合的な説明を知っている (整合的な説明をできる) 読者がいれば教えてくださいと 「黒本」 のなかで懇願している。私の懇願に対して、親切にも 10名ほどから反応があって HDR-DTL について意見をいただきました──でも、残念なことに妥当な説明は見当たらなかった。

 T字形 ER法 (モデル TM の前身) は、「命題論理」 を前提にして作られた技術体系であって、当時 実地に使っていた技術を (理論的な検証をしていないままに) 体系化しただけでした──幸いにも、T字形 ER法は多くの企業に導入されて、実績 (成功例) を示してきていました。ただ、当時から HDR-DTL の妥当な説明ができないまま使われていました。T字形 ER法の HDR-DTL 技術は、理論的な説明ができないけれど、技術として使って問題が起こらないので、使われてきました。逆に言えば、実地に使っていて問題が起こらない (破綻しない) ということは、理論的妥当性が必ずあるはずです。ただ、その理論的妥当性を (T字形 ER法が前提にしている) 「命題論理」 では説明できない。そのことは、「黒本」 を執筆していたときに、私は すでに気づいていました── HDR-DTL 構造は、「『関係』 が そのまま モノ になる」 という形式であることを私は気づいていて、その形式を 「命題論理」 では説明できないことも わかっていて、だから 読者に助けをもとめた次第です。

 HDR-DTL 構造が整合的に説明できなければ、或る前提のうえに ひとつの体系として整えたT字形 ER法は遺憾ながら不備があるということです。そのために、私は 「黒本」 を執筆している最中に 「数学基礎論」 を学習しはじめました。これは或る意味では私には つらいことでした──ふたつの労役を同時に進めていて労働量が多くて つらい ということではなくて、T字形 ER法の体系を世に問う著作を執筆しているいっぽうで、それを否定することになるかもしれない学習を進めるという二律背反の労役を同時にやっていたことが つらかった。実際、「黒本」 を出版した 2年後には 「論理 データベース 論考」 (以下、「論考」 と略) を出版して、T字形 ER法を 「数学基礎論」 の観点から見直しています──「論考」 は、構文論の観点からT字形 ER法を検証した著作です (そして、この検証がT字形 ER法を後に否定する伏線となったのです、ただ 「論考」 を執筆したときには、私は 「数学基礎論」 の 「モデル 論」 を丁寧に学習していなかった)。「論考」 を出版して、それ以後 構文論を重視するようになって、私の頭のなかで HDR-DTL 構造が 「命題論理」 では説明しきれないことが はっきりとわかって、T字形 ER法の見直しに取り組みました。そして、その見直しの成果を出版したのが 「データベース 設計論──T字形 ER法」 (以下、「赤本」 と略) でした。この著作は、T字形 ER法が モデル TM に移行する過度期の形を示した書物です。

 「赤本」 では、HDR-DTL 構造を 「概念的スーパーセット」 として扱っています (勿論、この扱いは間違いです-苦笑)。「論考」 で構文論を扱ったのですが、意味論が手薄になっていたので、「数学基礎論」 の意味論を学習すべく さらに 「数学基礎論」 の学習を進めて、その成果を問うたのが 2009年に出版した 「モデル への いざない」 (以下、「いざない」 と略) でした。「いざない」 に至って、HDR-DTL 構造が 「合成関数」 (クラス算の言いかたをすれば、「ファンクター」) であることがわかった── HDR-DTL 構造をはじめて整合的に説明できました。そして、この時点で、(「命題論理」 を前提にしていた) T字形 ER法は姿を完全に消します (!)。前述したように、HDR-DTL 構造が クラス 算を使えば、いとも簡単に整合的に説明できるのがわかって、モデル 技術の前提を (「命題論理」 を捨てて) 述語論理 (「数学基礎論」 の一分野) に移行しました。その移行の決め手になったのは、「レーヴェンハイム・スコーレム の定理」 でした。「いざない」 において、意味論を検討したときに、「レーヴェンハイム・スコーレム の定理」 を私は初めて知った。数学 (特に、「数学基礎論」) を専門している研究家にとっては、この定理は 極々 初歩の・周知の定理なのでしょうが、30歳まで数学とは無縁の、しかも 「文学青年」 だった私が この定理を知ったのは 50歳半ばになってからのことです。そして、構文論と意味論を 或る程度 学習できたので、モデル TM を再体系化した著作を本年 (2022年) に出版します (今、執筆中です)。

 HDR-DTL 構造 (多値の 「AND 関係」) がT字形 ER法を モデル TM を変えた契機だった、というふうに今振り返ってみて思います。モデル TM が 「セット (集合)」 を根底にしながらも、クラス を取り入れて、T字形 ERとは様変わりしました──モデル TM は、T字形 ER法と一見それほど変わっていないように見えるかもしれないのですが、モデル としての前提が根本的に違います (したがって、その技術の使いかたも違う)。T字形 ER法は、当時 モデル 技術と言っていながら、(「数学基礎論」の) 「モデル 論」 を学習していないまま 技術を体系化したにすぎなかった、、、(苦笑)。かつて、私の セミナー (T字形 ER法の セミナー) に出席した SE が次のように言っていました──「T字形 ER法は、いつ完成するのですか」 と。完成など存ろうはずもない、テクノロジー は自然科学の法則ではないのだから、社会の変転に呼応しながら改良されていかなければならない。「数学基礎論」 は、ゲーデル の頃から著しく進展してきています。そして、コンピュータ の テクノロジー も 1970年代・1980年代の テクノロジー に比べて著しく発展してきています。社会の構造も それらの時代に比べて大きく変化してきている。にもかかわらず、1980年代の モデル 技術が今でも そのまま適用できるなどと思っていたら、「生きた化石」 でしょう www. 学問の進展および テクノロジー の発展に呼応して、われわれは つねに学習を続けるのが当然ではないか。私の頭のなかでは、TM の次の バージョン の構想が浮かんでいます(TM は 現在 バージョン 3.0 [ TM3.0 ] ですが、TM4.0 の構想が浮かんでいます)。先ずは、今年に出版される拙著 (TM3.0 に関する著作) を 乞うご期待。 □

 




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