2022年 3月15日 「12.6 『合意』『L-真』 および 『F-真』」 を読む >> 目次に もどる


 本節が、本章 (第12章) の最終節であり、かつ本書の最終節です。わずか 1ページ くらいの記述ですが、この 記述が本書で訴えたかったことのすべてを表しています。そして、今執筆している拙著新刊は、この ページ を起点にして始まっています。この最終 ページ の考えは、今も変わっていない──この考えが モデル 論では妥当である (正統な・正当な考えかた) であることを本書の出版後に実感しています。本書の出版年は 2009年です (ソフト・リサーチ・センター 社刊)、拙著新刊が今年 (2022年) に出版されるので (技術評論社 刊)、その間 13年の月日が流れています。その 13年間、私は 「数学基礎論」 の学習を進めていました。13年間の学習を経ても、本節の考えかたは (益々 確信をもつに至っただけで) なんら変わっていない──


               ┌───── 指示規則(「T-文」)[ F-真 ] ───────┐          
               │                                                      │      
               │          ┌──────────┐                    │      
               │          │                    │                    ↓     
            形式的構成 ←──          f       ←───  自然言語 ← 事態    
                           │       (文法)     │      (「情報」)  │
                           └──────────┘                    │
                                      ↑                    ↑         │      
                                      │                    │         │      
                                生成規則 [ L-真 ]           └ 「合意」┘

 思えば遠くに来たものです──私が 40才のときに T字形 ER法 (TM の前身) を創る旅に出て、今に至る 28年間 ひたすら モデル 論を学習研究してきました。T字形 ER法の原形は、40才以前に出てきていましたが、それをT字形 ER法として統へ括 (くく) って出版した拙著が 「T字形 ER データベース 設計技法」 (1998年出版) でした。T字形 ER法は、当時 実地に使っていた データベース 設計法を体系化した著作です── モデル論という意識は薄かった (というか、モデル という ことば を使っていても、モデル 論の意識は 毛頭 なかった、と言っていいでしょう)。T字形 ER法は、コッド 正規形の影響を多大に帯びていて、データベース 設計法であって、T字形 ER法は 「現実を記述する」 と言っていながらも、モデル として 「現実的事態を写像する」 ための完全性を なんら証明していなかった。幸いにも、T字形 ER法は多くの企業に導入されて データベース 設計法としては成功していました。ただ、私は、「T字形 ER データベース 設計技法」 を執筆している最中、「数学基礎論」 を学習しはじめていて、T字形 ER法について その つめの甘さ を感じていました──多くの企業で導入されて成功しているのであれば (失敗しないのであれば)、なんらかの理論的整合性があるはずだと思っていて、それを証明するために 「数学基礎論」 の学習をはじめたのです (この点については、本 ホームページ のあちこちで綴っているので、割愛します)。

 当時 (1980年代後半) DOA (Data-Oriented Approach) が流行っていたのですが、DOA を唱える人たちが記述的意味論ばかりを重視していることに大きな不満を感じていた私は ゲーデルの 「完全性定理」 (「論理」では、「証明可能性 = 恒真」であること) を知って、 「論理的意味論」 を標榜しはじめました。「論理的意味論」 を唱えるのであれば、当然ながら、「論理」 規則を学習しなければならない──私は、「T字形 ER データベース 設計技法」 を出版したあと、ひたすら 「数学基礎論」 の学習に取り組みました。その学習成果を公表した拙著が次の 3冊です──

  (1)「論理 データベース 論考──数学の基礎とT字形 ER手法」 (2000年)
  (2)「データベース 設計論──T字形 ER」 (2005年)
  (3)「モデル への いざない──データモデルとは何か?」 (2009年)

 これらの 3冊を 順次 読めば、T字形 ER法が次第に整っていくのが追跡できます──T字形 ER法を構文論・意味論の観点から見直して、T字形 ER法が データベース 設計技術という枠を超えて、モデル 作成技術 TM として整っていく様が追跡できます (筆者の私自身が これらの著作を読み返して、T字形 ER法が TM へと変貌してゆく様が見て取れる)。そして、最終的に (2009年時点で) 辿り着いた 「私の モデル 観」 が本書 「いざない」 の この最終節です。そして、この最終節を書いたことで──最終節で述べている 「モデル 観」 に到達したことで──、私は拙著を もう執筆しなくなった次第です。

 ただ、「TM の会」 の会員たち (および、定期 セミナー に参加してくれた人たち) から 「新たな (TM の) 著作」 を出版してほしいと数年にわたって要望されて、一昨年の 12月頃 (日時について私の記憶が定かではない) M さん (独立系の編集者) から執筆を依頼されて、私は新刊を執筆することにした次第です。新刊は、この最終節で述べている 「モデル 観」 に立脚して、TM を説明しています──この 「モデル 観」 に立脚して、TM の技術は 「完全に」 構文論主体の法則型推論 (論理的意味論) として生まれ変わりました。技術的には、T字形 ER法と TM は、そんなに違いがないように見えるのですが、TM は 「関数」 を中核にした一つの公理系となっています (ちなみに、T字形 ER法は、「関連」 を主体にした 「技術を体系化」 であって、T字形 ER法と TM では 「前提」 が 180度 ちがっています)。

 本節の 「モデル 観」 が起点となって、TM は大きく変貌しましたし、この 「モデル 観」 を前提にして、TM は今後も進化し続けるでしょう──私の思考力が衰えないかぎりは、私が TM を検証し続けますが、私が引退したのちは、「TM の会」 の会員たちが TM を改良してくれるでしょう。それができるのは、TM が 「私の独自の」 技術ではなくて、「数学基礎論」 の技術を使っているので、「数学基礎論」 を学習している人たちであれば、だれでも改良することができます。技術というのは、そうやって継承されていくものなのだから。 □

 




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