2001年12月 2日 作成 論証表の作りかた >> 目次 (テーマごと)
2007年 2月 1日 補遺  



 TH さん、きょうは論証表の作りかたについて お話しましょう。

 他人の話 (あるいは理論) を聴いた後に、(総括するつもりなのかどうなのか) 箴言めいた寸評を言い放って得意になっている人々を多く観ることがあるのですが、(反吐がでるほどの) 不快感を僕は覚えます。

 「着想」 自体は、(文章にすれば、) 1行 (one-liner) もあれば記述できます。しかし、その 1行を論証するために、多大な努力を注ぐのです。そのような努力もしないで、箴言めいた寸評を放言して得意顔になっている人々は--マスコミ に記載されている論評・解説や書評などにも、この類のいい加減な寸評が多いようですが--「下衆(げす)い」 としか言いようがない。2300年も昔に、アリストテレスは以下のように言っています。

   There are only two parts to a speach:
   You make a statement and you prove it.

 逆説は刺激 (確立された体系を粉砕するための刺激) に過ぎない。そして、精神が陥る罠は、その刺激を、全身全霊を注いだ本当の仕事と勘違いしてしまうことでしょうね。見事な体系は美しい。精神が原因と結果の連鎖 (logical thread) を追究することは、ひとつの理性が正しく現れたことではないでしょうか。
 以下に、僕が論理を組むときに使っている論証表を記載しておきますので、使ってみてください。この 「論証表」 は、以下の文献から借用しています。原典の 45ページを参照して下さい。

   James J. Murphy, Jon M. Ericson, "THE Debater's GUIDE", Bobbs-Merrill Educational Publishing, Indianapolis.


 RESOLVED, THAT:(この行に「主張」を記述する:例--RESOLVED, THAT aRb は関数として扱わない.)
 1. NEED: (based on analysis of the status quo.)
  (1)That a problem exists.
  (2)Why a problem exists.
 2. SOLUTION: (based on analysis of the proposed policy.)
  (1)That a solution exists.
  (2)Why the solution works.
    □ practicality.
    □ workability.
    □ benefits.



 論理を組んだ後に、論証表を使って、組み立てた論理を検証しても良いでしょうね。そうすれば、「論理の飛躍 (論理の脱落--a missing link)」 に気づくこともあるでしょう。なお、(「論理の飛躍」を回避するために) 論証のなかで使う推論は、できるかぎり、「モーダス・ポーネンス(modus ponens)」(*) しか使わないようにしたほうがいいでしょう。

 そして、実地に使う技術なら、有効性 (practicality, workability, benefits) を保証しなければならないし、(「万能薬 (a cure-all)」 などないのだから) ときには、反作用 (ill-effect) を正確に注記しなければならない。

 以下に、論理を 「簡単な (plain)」 英語を使って解説した書物を記載しておきますので、読んでみてください。英語の学習にも論理の習得にも役立つでしょう。

 Mortiner J. Adler, Charles Van Doren, "HOW TO READ A BOOK", YOHAN
 Lionel Ruby, "THE ART OF MAKING SENSE", YOHAN

 いずれの書物も、LADDER EDITION の出版なのですが、日本では YOHAN PUBLICATIONS が出版代行をしています。いずれの書物も、書店の洋書 コーナー に行けば、すぐに入手できるでしょう。
 次回は、ディベート の 「型」 についてお話しましょう。□


(*)「モーダス・ポーネンス(modus ponens)」 とは、命題論理のなかで使われる以下の三段論法をいう。
   A, A ⇒ B 
      B

 



[ 補遺 ] (2007年 2月 1日)

 推論など、意識しないでも、前提から 順次 導けば、ちゃんとした結論を得ることができると思っているひと もいるかもしれないが、以下の罠 (有効でない推論) に陥っている人たちを私は、多々、観てきた。以下の 「有効でない推論」 は、かつて、本 ホームページ の 332ページに記載した エッセー を再録した。

  [ 前提 ] すべての A は、F である。
  [ 前提 ] すべての B は、F である。
  [ 結論 ] すべての B は、A である。

 
 以下の値を代入してみる。

  A (哺乳類)
  B (猫)
  F (生物)

 
 とすれば、以下のようになる。

  [ 前提 ] すべての哺乳類は、生物である。(真)
  [ 前提 ] すべての猫は、生物である。(真)
  [ 結論 ] すべての猫は、哺乳類である。(真)

 
 一見すれば、妥当であるように思われるが、以下のような値を代入してみる。

  A (人間)
  B (猫)
  F (生物)

 
 とすれば、以下のようになる。

  [ 前提 ] すべての人間は、生物である。(真)
  [ 前提 ] すべての猫は、生物である。(真)
  [ 結論 ] すべての猫は、人間である。(偽)

 
 したがって、この論証は、「妥当ではない」。
 ちなみに、[ 前提 ] は、以下のように読み変えることができる。

 「もし、A が 『人間』 であれば、『生物』 としての性質をもつ。」
 「もし、B が 『猫』 であれば、『生物』 としての性質をもつ。」

 
 それらの前提は、集合論的に言えば、以下のように記述できる。

 人間 (x) ⇒ 生物 (z).   猫 (y) ⇒ 生物 (z).

 
 しかし、「人間」 の集合と 「猫」 の集合とのあいだに成立する関係が検証されないまま、「A = B」と、いっきに、結論が導かれている点が、論証の飛躍になっている。

 日本語を話すことができるからといって、日本語で論理的に考える力があることにはならない。推論は、意識して学習しなければならない技術である。




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  佐藤正美の問わず語り