TH さん、きょうは、「和英辞典の使いかた」 についてお話しましょう。
和英辞典は、以下の 2つの目的のために使うことができる。
(1) 国語辞典として使う。
(2) 英作文辞典として使う。
和英辞典を国語辞典として使うということは、英語と対比しながら日本語の概念を解析するということを目的としている。
国語辞典として使うことができる和英辞典は、以下の辞書を お薦めする。
(1) 「英文を書くための辞書」、Daniels F.J.、北星堂
(2) 「新和英大辞典」、増田 綱 主幹、研究社
(3) 「NEW 斉藤和英大辞典」、斉藤秀三郎、日外アソシエーツ
「英文を書くための辞書」 は、「BASIC ENGLISH」 を使った英訳例文が豊富に用意されている。たとえば、「とき (時)」 という日本語の記述は、以下のように 「助詞」 との コンビネーション を明示して、豊富な例文 (日本語および英訳) を記載している。
■オ 時をうかがう/時を打つ/〜に時を費やす/時を作る/時を経るに従って/時を待つ/時を見て[ 何々する ]
■カ-■ト 時がたてば/[ 何々する ] 時が遠からず(して)来る/[ 何々する ] 時が [ 近くなって ]/若い時から/[ 何々した ] 時から/
(もう) [ 何々する ] 時だ/時として(は)/
(以下、省略)
以上の 3冊は、いずれも、(記載されているすべての単語を対象としているという訳ではないが、基本語に関して) その単語と collocation を形成する 「助詞」 や 「主語」 や 「目的語」 を明示して、日本語の構造を分析・分類しているので、最高級の国語辞典として使うことができる。気になる日本語について、例文をすべて読めばよい。
日本語を使って文章を組み立てられない人は、英語を使っても文章を組み立てることができない。
[ 注意 ]
「新和英辞典」 は CD-ROM 版のほうをお薦めする。CD-ROM 版には最新語として 6,000語が追加されている。
「NEW 斉藤和英大辞典」 は (名著の誉れの高い) 「斉藤和英大辞典」 の復刻版である。したがって、最新の用語は記載されていないので、「基本語」 を調べるときに使うようにすればよい。
和英辞典を英作文辞典として使うことは普通の使いかたであるが、英作文を綴るとき、和英辞典を使うには コツ がある。
まず、英作文辞典として、以下の辞書をお薦めする。
(1) 「ランダムハウス英語辞典」(CD-ROM 版)
(2) 「新和英大辞典」(前述)
(3) 「新編 英和活用大辞典」、市川繁治郎 編集代表、研究社
(4) 「最新 日米口語辞典」、エドワード G. サイデンステッカー・松本道弘 共著、朝日出版社
[ 注意 ]
「新編 英和活用大辞典」 は CD-ROM 版のほうをお薦めする。
「最新 日米口語辞典」 には、意外なことに (遺憾なことに?)、CD-ROM 版がない。
[ 補筆 ]
(2002年11月) 「口語英語大辞典」 (朝日出版社) [ CD-ROM 版 ] のなかに、「最新 日米口語辞典」 が収録されている。
(2003年 7月) 「新和英大辞典 [ 第 5版 ]」 (渡邊敏郎 編、研究社)が リリース された。29年ぶりの大改訂である。
和英辞典を英作文辞典として使う コツ を以下に述べる。
(1) 「ランダムハウス英語辞典」(CD-ROM 版) を使って、「日本語検索」をして例文を調べる。
(2) 「新和英大辞典」 (CD-ROM 版) を使って、「全文検索」 をして例文を調べる。
(3) 「新編 英和活用大辞典」 (CD-ROM 版) を使って、「日本語検索」 をして例文を調べる。
(4) 口語なら、「最新 日米口語辞典」 を使う。
(英文を執筆することを仕事としている人々が達意の文章を綴るのは当然だが) われわれ シロート は、「達意の文章」 を綴るのではなくて、「(なんとか) 意味を伝達できる」 程度の英文を綴ることが目的 (限界) である。
以下の例を使って、和英辞典の使いかたを述べる。
[ 日本語の例題 ]
韓国は日本にとって 「近くて遠い」 国だった。
ワールドカップ の共同開催は両国の関係を改善することになるに違いない。
英訳は、以下の手順で作成する。
(1) 例文の収集
(2) 例文の組立 (試訳の作成)
(3) 試訳の添削
(4) 英訳の完成
1. 例文の収集
さて、以上の文章を英訳するには、以下の順序で考えればよい。
(1) 1つの文章のなかで、1つの キーワード (伝えたい概念) の 「名詞」 を探す。
名詞がないなら、形容詞形も考えてみる。
(2) キーワード の 「日本語検索」 (あるいは、全文検索) をして、前述の 3つの辞典のなかから例文を探す。
まず、「韓国は日本にとって 『近くて遠い』 国だった」 のなかで、1つの キーワード を 「名詞」 形にする。
「近くて遠い」 という記述は 「関係」 を形容する。したがって、キーワード は 「関係」 である。
「近くて遠い」 という意味は、「(距離が) 近いが (関係が) 疎遠である」ということである。
そこで、「距離」 も検索の対象とする。
「新編 英和活用大辞典」 に使って「距離」 を日本語検索したら、検索結果として、以下の 4つの項目があった。
(1) (船と船との) 十分な距離 berth
(2) 距離 distance
(3) 距離 haul
(4) 距離 remove
(1) は該当外であることが直ぐにわかるので、他の 3つのうちから選ぶことになる。
それぞれの検索結果を クリック すると、基本的な和訳が掲載されている。
distance n. 距離、隔たり、間隔; 道のり、遠方; 広がり; 時の経過; よそよそしさ、疎遠; 遠景.
haul n. ひと網; 獲物; 距離.
remove n. 距離; 親等.
以上から判断して、distance を候補とする。そして、distance の例文をすべて読む。以下が候補となる。
◆ within easy distance of... (...から楽に行ける距離に)
◆ Although they sat side by side, the distance between them was great.
(並んで座っても、その 2人の間の心理的な隔たりは大きかった)
これらの例文から判断すれば、distance は 「地理的な」 距離と 「精神的な (心理的な)」 距離の両方に使うことができる。ちなみに、distance の形容詞の例文を調べてみたら、以下のような・そのものずばりの例文があった。
◆ Korea is not at all distant from Japan. (韓国は日本から少しも遠くはない)
次に、「関係が疎遠である」 という例文 (英訳) を 「relation (あるいは、relationship)」 のなかから探す。
ついでに、「両国の関係を改善する」 の例文 (英訳) も拾っておけばよい。
◆ Relations between the US and Japan have cooled. (日米関係は冷却している)
◆ cultivate friendly relations between the two nations (2国間の友好関係を深める)
◆ encourage more friendly relations between the two neighboring nations
(隣りあったその 2国の国民の間にいっそうの親善関係を促進する)
◆ improve the friendly relations between the two countries (その 2国間の親善関係を増進する)
◆ renew a lapsed relationship (消滅していた関係を修復する)
◆ There is a distant relationship between those two ideas.
(これらの 2つの考え方には遠い [ わずかな ] 関係がある)
さて、「共同開催」 は、(「新和英大辞典」 を使って調べたら) 以下の例文があった。
- 共同開催する cohost (the soccer World Cup in 2002)
2. 例文の組立 (試訳の作成)
では、集めた例文を使って英訳 (a draft) を組み立ててみる。
「Korea is not at all distant from Japan, but there is a distant relationship between the two nations.
Cohosting the soccer World Cup in 2002 will surely encourage friendly relations between the two
neighboring nations.」
この試訳は、(例文を 「つぎはぎ」 にしただけなので、以下のような) 用語の 「繰り返し」 があって、文章が冗長になって リズム がない(英語では、「強調」 を目的にしないのであれば、同一の用語の繰り返しを嫌う)。
(1) distant
(2) between the two countries/nations
そこで、between the two neighboring nations のなかの 「neighbor」 を第一文に流用する。
「neighbor」 の例文を 「新編 英和活用大辞典」 を使って調べて、以下の例文を見つけた。
- one's nearest [next-door] neighbor
そこで、第一文を以下のように添削する。
Korea is Japan's nearest [next-door] neighbor, but there is a "distant" relationship between the two nations.
Cohosting 云々という長い動名詞の主語は 「ぶかっこう」 なので、between two nations を継承して--two nations を、そのまま、「畳み込む」 ようにして、they として--、以下のような英訳にする。
「They cohost the World Cup in 2002.」
さきほどは「a "distant" relationship」 を使ったので、それと対句になるような例文を 「新編 英和活用大辞典」 を使って探してみたら、以下の例文があった。
「They are near relations of ours. (私たちの近親者です)」
とすれば、以下の構文を組むことができる。
(1) nearest [next-door] neighbor <----> a "distant" relationship (対句)
(2) a "distant" relationship <----> "near" relations (対句)
さて、まとめてみる。
Korea is Japan's nearest [next-door] neighbor, but there is a "distant" relationship between the two
nations. They cohost the World Cup in 2002, and they will become "near" relations of neighbors.
3. 試訳の添削
最後に、以下の 3点を添削する。
(1) 時制
(2) リズム(読んだときのリズム)
(2)-1. 対句
(2)-2. 畳み込み
(2)-3. 倒置
(3) 冠詞と数
(3)-1. a か the か
(3)-2. 単数形か複数形か
「時制」 を以下のように整える。
Korea is Japan's nearest [next-door] neighbor, but there has been a "distant" relationship so far
between the two nations. They are cohosting the World Cup in 2002, and they will have become
"near" relations of neighbors.
[ 歴史的事実/地理的な真実 = 現在形 ] ---> [ 過去から今まで = 現在完了形 ] --->
[ これからする、しかも強調して言う = 現在進行形 ] ---> [ 将来、そうなっている = 未来完了形 ]
次に、「リズム」 を整える。
but there has been は リズム が悪いので、「倒置形 (言いたいことを前にする)」 として、relations between the two countries have been とする (距離なので、countriesとする)。 "near" relations of neighbors は a "distant" relationship の対句にしたのだが、「しつこい」 し リズム が悪い。そこで、nearest [next-door] neighbor の対句にして、the "true" nearest neighbors とする。
■ [ 対句 ] nearest [next-door] neighbor (距離的)<-- "distant" --> "true" nearest neighbor (心理的)
発語される状況によっては、They を We にしたほうが良いかもしれない。
4. 英訳の完成
Korea is Japan's/our nearest [next-door] neighbor, and relations between the two countries have been
"distant" so far. But now that they/we are cohosting the World Cup in 2002, they/we will have become
the "true" nearest neighbors.
われわれ シロート としたら、この英訳が限界であろう (と、小生は自ら慰めている)。
以下に英作文の注意点をまとめる。
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1. 英訳は、以下の手順で作成する。
(1) 例文の収集
(2) 例文の組立(試訳の作成)
(3) 試訳の添削
(4) 英訳の完成
[ コツ は、「新編 英和活用大辞典」 を 「日本語検索 (全文検索)」 すること。]
2. 試訳は、以下の点を考慮して添削する。
(1) [ 書き出しと結論を除いて ] 同じ ことば を繰り返さない。
(逆に、序論と結論はちゃんと呼応--対応--しなければならない。)
(2) 時制を揃える。
(3) 以下の修辞法を使って、リズム (読んだときの リズム) を整える。
(3)-1. 対句
(3)-2. 畳み込み
(3)-3. 倒置
(4) 冠詞と数に注意する。
(4)-1. a か the か
(4)-2. 単数形か複数形か
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次回は、国語辞典の使いかたを説明します。□