2005年 7月 1日 作成 | 専門辞典の使いかた | >> 目次 (テーマ ごと) |
2010年 7月 1日 補遺 |
(1) 「コンピュータ ソフトウエア 事典」、廣瀬 健・高橋延匡・土居範久 編、丸善書店 ただ、最近 (ここ数年) は、それらの辞典を、ほとんど、参照していない。最近、ぼくが、多々、使う専門辞典は、哲学辞典と数学辞典です。というのは、ここ数年来、ぼくは、TM (および TM’) を、構文論・意味論の観点から、検討するために、関係主義と実体主義を調べているからです。そのために、ぼくは、論理的意味論系統の書物を読んできました。たとえば、フレーゲ 氏、ラッセル 氏、ホワイトヘッド 氏、タルスキー 氏、ウィトゲンシュタイン 氏、ヘンペル 氏、パース 氏、ポパー 氏、カルナップ 氏、クリプキ 氏らの書物・文献や、分析哲学系統の文献を読んでいます。 それらの書物を読んでいて、専門用語の定義を確認したり、さらに、関連語を 「芋蔓式に」 辿ったりするために、専門辞典を使うのですが、以下の辞典を、多々、参照しています。
(1) 「数学辞典 (第3版)」、日本数学学会編集、岩波書店 以上に記載した辞典のほかにも、いくつかの小型版辞典も併用しているのですが──それらの辞典は、「読書案内」 で、それぞれの学問領域のなかに記載していますが──、以上の辞典が、哲学・数学の専門用語を調べる際、基点となっています。
専門用語 (専門的な概念) を調べる際、ぼくは、まず、百科事典を使って、おおまかな意味を調べます。ぼくが使っている百科事典は、「世界大百科事典(平凡社)」 (CD-ROM 版) です。
(1) 関係 (哲学) まず、「関係 (哲学)」 を読めば、「関係主義」 が、現代では、主流であることが述べられていて、(関係主義は、仏教の 「縁起」 に近い概念であることや、) 「一者-他者」 という考えかたが基底になって、「一者」 というのは、「『として』 在る」 ことであり、「『に対して』という作用」が「一者-他者」の存在関係であることが記述されています。そして、一者が、他者に対して、「因(よ)って」 存在するとき、機能的関係であり、「拠(よ)って」 存在するとき、論理的関係である、ということが記述されています。「に対して」 「に因って」 「に拠って」 という概念を、存在論的・認識論的に検討することが、関係を定義する論点である、と述べられています。 次に、「関係 (数学)」 を読めば、集合 X と集合 Y に対して、それぞれの元として、x と y を考えて、また、x と y に対する命題を考えて、x と y の真・偽がわかれば、命題の真・偽がきまるとき、命題のことを関係あるいは 2項関係である、と記述されています。そして、2項関係は、xRy として記述して、反射的・対称的・推移的な関係が述べられています。そして、非対称的な関係にも言及されています。 そして、「関係 モデル」 は、「データベース」 という見出しのなかで記載されていて、コッド 関係 モデル や ER モデル にも、きわめて簡単な説明ですが、言及されています。 さて、哲学・数学に関して、或る程度、知識を習得している人たちは、以上の説明を読めば、簡潔な見事な記述であることを気づくでしょうが、いまから、「関係」 概念を調べようとしている人たちにとっては、簡潔すぎて、いまだ、なんらかの像を作ることもできないし、体系を考えることもできないでしょう。そこで、次の手順として、いよいよ、それぞれの専門辞典を使って調べることになります。 ちなみに、上述した (百科事典を使って まとめた) 記述を読めば、百科事典が記している情報は、いかに、有用であるか、という点を再認識するでしょう。「問わず語り」 のなかで、かって、百科事典を読むことを、お薦めしましたが── 30ページ と 202ページ を参照してください──、世界大百科事典 CD-ROM 版の値段は、たぶん、2万円以下だと思うので、購入しても、投資は、確実に payoff するでしょう。 百科事典を使って、まず、起点の知識を得たならば、次に、専門辞典を使って、「概念」 を、確実に定義してきます (あるいは、拡充していきます)。まず、哲学辞典を使って、「関係」 を調べてみます。岩波版 「哲学・思想 事典」 によれば、実体主義と関係主義を対比して、実体主義の考えかたは、独立自存する 「実体」 が、まず、あって、次に、(「実体のあいだ」に、) 「関係」 が二次的に成立する、という考えかたであり、関係主義の考えかたは、「関係」 が一次的であって、「実体」 は、「関係のなかの変項」 にすぎない、という考えかたである、というふうに、まとめています。 そして、岩波版 「哲学・思想 事典」 では、関係主義という用語を最初に使った人物が、リッカート 氏 (Rickert, H.) であることを紹介しています。リッカート 氏は、「一者」 と 「他者」 との統一である 「関係」 という ありかた こそが根源的であると考え、また、カッシーラー 氏 (Cassirer, E.) は、「実体概念と関係概念」 (1910年) のなかで、「個々の概念は、理論的複合体のなかで、項としてのみ確認される」 ことを論証して、科学的な認識が、実体概念からはじまって、関係概念のほうに移ってきたことを明らかにした、ということにも言及しています。
岩波版 「哲学・思想 事典」 では、「関係」 に関する考えかたとして、以下の 4つを、まとめています。
さて、哲学の専門辞典を読めば、「関係」 に関する考えかたの体系を、おおまかに把握することができたでしょう。
(1) 反射性 (aRa) 関係 R が反射性・対称性・推移性を、すべて、満たすなら、「同値関係」 と云い、そして、2項関係の 「特殊な」 関係として、1項関係を考えれば──たとえば、「x は従業員である」 というふうに、1つの変項 x のみを扱えば──、「関係」 は、「性質」 を包摂することになって、「関係」 は、「実体 (性質)」 をふくむ上位概念になることに言及しています。 「関係」 の論理は、1項述語の外延的論理 (クラス 論理学) に対して、関係論理学と云われ、パース 氏や ド・モルガン 氏や シュレーダ 氏が研究を進めて、現代では、関係の論理は多項述語論理のなかで扱われ、多項関係 (多項述語論理) は、以下のように記述される、と述べています。 R{n1∈N1, n2∈N2,・・・, ni∈Ni, ∧ P (n1, n2,・・・, ni)}. 岩波版 「哲学・思想 事典」 の記述は、百科事典の記述に対応して、さらに、拡充されていますね。百科事典も、専門辞典も、いわゆる 「通説」 を述べていますので──たとえ、専門的概念に対する 「解釈」 という点では、執筆する人たちのあいだに、相違があっても──、記述の中身は、ほとんど、同じになります。もし、「通説」 に対して相違する 「解釈」 を述べるのであれば、そうであることを注記するのが執筆の規約です。 さて、哲学の専門辞典を読んできたら、そうとうな知識を得ることができました。さらに、数学的な技術を知りたいのであれば、数学辞典を使って調べますが、そのやりかたを、きょうは、割愛します。ちなみに、最近、ぼくは、岩波版 「数学辞典」 を使って、「多値関数 (多価関数)」 を、写像・関数・セット・クラス という概念を基点にして調べました。そして、TM のなかで使う 「多値」 という概念を、数学的概念 (たとえば、多値従属性) とは、若干、相違する概念として使うことにしました。 専門辞典として小型の用語辞典を使って、個々の単語の意味を調べることが多いと思いますが、百科事典や中型の専門辞典を読んで、「概念」 を 「芋蔓式に」 拡充する、という 「辞典の使いかた」 を習得してください。 |
[ 読みかた ] (2010年 7月 1日)
取り立てて補足説明はいらないでしょう。 ひとつだけ注意をしておけば、専門辞典で調べた概念・体系は、あくまでも おおまかな概念・体系であって、それら (概念・体系) に関して詳細な・正確な知識を得るためには、(専門辞典で得た知識を基底にして、) 当然ながら、専門書を数多く読まなければならないでしょう。 |
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