思想の花びら 2013年 6月 8日


 ●  アラン (哲学者) のことば

  彼が アカデミー 会員に選ばれ、会員席の立派な椅子に坐ると、ごくしばらくのあいだは、手のたしかさ、てのしなやかさを、思い出したようにとり戻るが、ほどなくそれを失う。ペン を王笏 (おうしやく) みたいに構えてにぎるから。
  人を小馬鹿にした態度、地位名声を得るとすぐさま生まれるあのおろかさは、筆致に重くおしかかる。輪郭はきちんと取れていても、デッサン は卑俗になる。   

 



 ●  亀井勝一郎 (批評家) のことば

  すべて一流の作家とは、何らかの意味で人間の化物性を摘出し描写する才能をもった人である。そうでなくても、数多くの人間を描き、年月を経て行けば、化物性にぶつかる筈だと私は思う。作家だけではない。どんな人間でも、長年月にわたって人間と交際してゆくかぎり、化物性に直面し、自分もまた化物となる。謀略の中に生きる政治家、実業家などの中に、時折そういう人物をみかける。あるいは人間は老齢に達するにつれて、次第に妖怪性を帯びると言っていいかもしれない。彼がもし一事に徹した人であったならば。

 


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