思想の花びら 2020年 1月15日


 ●  アラン (哲学者) のことば

  よく考えなければならなぬということがすなわち思想の身代金なのだ。考えなくてはどうしていいかわからない以上、よく考えなければよく行為することはできぬ。周知のように、まずいことをしでかしはしないかというおそれが、ここでも重大な障害となるのであり、この種のおそれが、また常にあらゆるおそれのうちでいちばん幅をきかせているものである。しかし、このおそれは、動き始めようとして互にかみあう無数の行為の感情にすぎない。このおそれに打ちかって、望むところをおこなうには、望むところだけをおこなうようにしなければいけない。(略) いちばん簡単な練習も情熱に対する戦い、とくに恐怖や虚栄心や焦燥に対する戦いなのである。

 



 ●  亀井勝一郎 (批評家) のことば

  たつた一枚の絵でもいゝ。自分の好むものの前に立つて、五分間これを凝視すること、たゞそれのためにだけ博物館は訪れるものだといふことを、私は忘れがちなのである。五分間とは実に短い時間だ。しかしその間全身全霊を傾けて眺めつゞけるといふことは、容易なことではない。(略) 一流の作品に対しては、鑑賞者は汗を流すべきだ。芸術とはまづ汗を流すものである。大急ぎで博物館を巡つて、労力なく多くのものを観て、たしかに見たと思ふその錯覚から離れなければいけない。美術に対しては眼の訓練が必要である。思考力も感覚もすべて眼に集中される。落着いた凝視、そのくりかへしといふ当然のことを、今の我々は実行しない。

 


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