2003年10月16日 作成 | 「理論編第8章 (ウィトゲンシュタイン)」 を読む | >> 目次に もどる |
2006年 7月16日 更新 |
第 8章では、以下の 3人の思想を まとめてみた。
(1) ウィトゲンシュタイン
集合論の パラドックス を回避するために、ツェルメロ は 「安全基準」 を設けた。 いっぽう、ラッセル は、述語論理を完成して、「タイプ 理論 (型の理論、階の理論)」 を提示した。ラッセル が提示した原初の理論を 「分岐タイプ理論」 といい、ラムゼー がそれを単純化して 「単純タイプ理論」 として整理した。ラッセル が提示した タイプ理論は、後々、2人の人物 (ウィトゲンシュタイン と ゲーデル) に多大な影響を及ぼすことになる。
ノイマン は、記号論理の手法を使って、集合論の形式化を拡張した。ベルナイス と ゲーデル は、ノイマン の形式化を単純な形に整理した。この集合論を 「BG の公理系」 という。
以上の歴史が第 8章の伏線である。
数学の観点からすれば、以上の考え方は、「素朴」 すぎる。たとえば、量化記号を対象にしていないし、「無限」 の概念も考慮されていない。ウィトゲンシュタイン は、集合論 (つまり、「無限」 の概念) を認めてはいなかった。ウィトゲンシュタイン の関心は、「言語の意味は、いかにして成立するのか」 という点にあった。
ただし、後々、ウィトゲンシュタイン は、以上の考えかたが間違いであったとして、新たな考え ([ 後期の ] 思想) を提示する。後期の思想では、言語ゲーム という考えかたが提示された。言語ゲーム の考えかたでは、以下の点が主張されている。
ただし、ウィトゲンシュタイン が使う 「文法」 という意味は、言語学のなかで定義されている 「文法」 という意味よりも広い概念であり、「生活様式」 に近い概念である。言語ゲーム の考えかたとして、「規則に従う」 ということは、どういうことなのか、を検討吟味して、ウィトゲンシュタイン は、以下を主張した。
言語ゲーム の考えかたを 「意味の使用説」 という。 いっぽう、ゲーデル は、ラッセル の タイプ理論を使って、「不完全性定理」 (「決定不可能な」 命題) を証明した。「不完全性定理」 では、40数個の原始帰納的関数が提示された。原始帰納的関数が計算可能関数として拡張されて、「アルゴリズム」 という概念が提示された。「アルゴリズム」 を具体的な機械構造 (コンピュータの原型) として提示した人物が チューリング である。
T字形 ER手法は、「統語論」 として 「真理関数」 の考えかたを継承しているが、「意味論」 として 「言語ゲーム」 の考えかたを導入した。自然言語・コード体系・(再利用可能な) データ構造という三位一体の対象を扱うには、そうせざるを得なかった。したがって、T字形 ER手法は、[ タイプ理論を否認して、] 言語の形態論の観点に立っている。 |
[ 補遺 ] (2006年 7月16日)
TM (T字形 ER手法) の根源思想という観点で言えば、本章が本書のなかで中核になる章であろう。 ただ、いまから振り返ってみれば、「構文論」 として、数学上、「モデル 理論」 を まとめておいたほうが良かったと思う。そして、「意味論」 として、カルナップ の説を まとめておいたほうが良かったと思う。「モデル 理論」 の概説は、田中一之著 「数の体系と超準 モデル」 (裳華房) を参照されたい。「意味論」 に関しては、拙著 「論理 データベース 論考」 のあとで出版した 「データベース 設計論--T字形 ER (関係 モデル と オブジェクト 指向の統合をめざして)」 の理論編のなかで まとめた。 「構文論」 と 「意味論」 の兼ね合い (あるいは、関係主義と実体主義の兼ね合い) が難しい現象は、TM では、「対照表」 として現れている。対照表では、「個体と関係は同一 レベル にある」 (ウィトゲンシュタイン) という命題が真となる。たとえば、以下を考えてみる。 {生地コード、...}. {サイズ・コード、...}. {生地コード (R)、サイズ・コード (R)}. 対照表は、「構文論」 と 「意味論」 との兼ね合いで、以下のように考えるのが妥当である。
(1) 構文論上、resource の文法を適用する。 対照表は、意味論上、複数の resource が関与して或る事態 (event) を示すことが多いが、たまに、resource を言及することもある。対照表が resource を言及する例として、「データベース 設計論--T字形 ER (関係 モデル と オブジェクト 指向の統合をめざして)」 の最後の ページ に 「銀行口座」 の 「組 オブジェクト」 を示した。 対照表が、event としての性質を示すいっぽうで、resource の性質を示す理由は、複数の resource の構成を以下の 2点から解釈できるからである。
(1) 過程としての組織 (-ing)
たとえば、「銀行口座」 の例でも、もし、性質として 「日付」 が帰属するなら、「口座開設」 という event として解釈できるが、もし、性質として、口座名義人が帰属するなら、resource として解釈できる。 |
<< もどる | HOME | すすむ >> | |
▼ 「論理データベース論考」を読む |