2004年 7月 1日 作成 「基準編第11章 (命題論理と タイプ 理論)」 を読む >> 目次に もどる
2007年 4月 1日 更新  




 「論理 データベース 論考」を執筆した理由は、以下の 4点に対して、結論を出すことであった。

 (1) 要素命題を単文 (「主語-述語」 形式) とする。
 (2) 写像理論を否認する。
 (3) タイプ 理論を使わない。
 (4) 関係の論理として、関数を使わない。

 「論理 データベース 論考」 の最大の論点は、T字形 ER手法の立脚点として、写像理論を否認して、「言語 ゲーム」 (言語の形態論) に移行する点にあった。

 タイプ 理論に対しては、(「論理 データベース 論考」 の前に出版された) 「T字形ER による データベース 設計技法」 のなかで、すでに、否認して使っていなかった。というのは、T字形 ER手法は、ウィトゲンシュタイン 氏の 「論理哲学論考」 を底本にして作ったので、「論理哲学論考」 は、タイプ 理論を否認するために執筆されたので、T字形 ER手法は、そもそも、タイプ 理論を否認していた。ただ、ウィトゲンシュタイン 氏は、タイプ 理論を否認して、「モノ と関係は同一 レベル にある」ことを示すために、写像理論を使って「現実の モノ と論理的言語のあいだには、内的な共有形式がある」 という論法を使った。そして、彼は、のちのち、写像理論を否認して、「言語 ゲーム」 の考えかたを提示した。そのために、「論理 データベース 論考」 が最大の論点にしたのが、写像理論を否認して、「言語 ゲーム」 を立脚点にすることであった。

 ただ、タイプ 理論を否認して、真理関数 (命題論理の真理値表--言い換えれば、主選言標準形) を使ってT字形 ER手法を作った際、当初、曖昧な点になったのが、「HDR-DTL」 (2つの モノ の関係が、そのまま、1つの モノ になる) という現象であった。つまり、「階」 が 1つ上位になっている現象である。

 「T字形ER による データベース 設計技法」 では、(タイプ 理論を否認した) 「命題論理」 方式を、そのまま、使って、タイプ 理論自体 (および、写像理論) を検討することをしていなかった。それらを検討するために、どうしても、「論理 データベース 論考」を執筆せざるを得なかった。そして、タイプ 理論と写像理論を検討するためには、数学基礎論・論理学の基本的な技術 (および、考えかた) を検討しなければならなかった。

 言い換えれば、T字形 ER手法自体の技術は、「論理 データベース 論考」 を執筆しても変化していない。執筆した理由は、理論的な立脚点を検討するためであった。T字形 ER手法の ファン たちのあいだでは、「論理 データベース 論考」が出版されたとき、戸惑いが出たそうであるが(笑)、小生は、その戸惑いを理解できる。なぜなら、T字形 ER手法自体は、変わっていないのだから。

 ただ、本稿の最初に記述した 4つの点を検討するために--T字形 ER手法が、理論的に破綻しないようにするために--、「論理 データベース 論考」を執筆したことを、ご理解いただきたい。 □

 



[ 補遺 ] (2007年 4月 1日)

 私は、ラッセル 氏の タイプ 理論を原典にあたって読んだ訳ではない。私が読んだ書物は、せいぜい、「プリンキピア・マテマティカ 序論」 (ホワイトヘッド・ラッセル 共著、岡本賢吾 他訳、哲学書房) で、PM の考えかたを鳥瞰したにすぎない。そして、タイプ 理論に関する概説を、いくつかの書物で学習したにすぎない。したがって、私は、ラッセル 氏の タイプ 理論を直に学習した訳ではない。私は、ラッセル 氏の タイプ 理論を否認した ウィトゲンシュタイン 氏の哲学に従っただけである。

 ウィトゲンシュタイン 氏の哲学に従って TM (T字形 ER手法) を整えてきたが--TM は、当初、かれの前期哲学 「写像理論 (意味の対応説)」 「真理関数」 を手本にして作られ、それから、かれの後期哲学 「言語 ゲーム (意味の使用説)」 に転回してきたが--、TM の体系のなかで、唯一、整合的に説明できなかった事態が 「HDR-DTL (one-header-many-details)」 であった。「論考」 を執筆して、はじめて、「HDR-DTL」 が 「関数の クラス (ファンクター)」 であることに気づいた次第である。したがって、「HDR-DTL」 は、「主選言標準形」 を正規形とする命題論理では説明できない。たとえば、{取引先、受注、商品} を使って 「HDR-DTL」 を以下に構成してみる。

       f1
   取引先 ←→ 受注 HDR
          ↑
          | f3
          ↓
         受注 DTL ←→ 商品
              f2

 「受注」 は、「取引先」 から 「商品」 への関数 (関係) である [ R (取引先、商品) ]。しかも、「受注」 は、さらに、関数 (関係) で構成されている。TM の記法では、以下のようになる。

                     
             ┌─────────────────┐
             │       受注      MA│
             ├────────┬────────┤
             │受注番号    │        │
             │        │        │
             │        │        │
             └────────┼────────┘
                      |
                      × 概念的スーパーセット
                      ↓
          ┌───────────┴───────────┐
          |                       |
 ┌────────┴────────┐     ┌────────┴────────┐
 │      受注HDR      │     │      受注DTL      │
 ├────────┬────────┤     ├────────┬────────┤
 │受注番号    │受注日     │     │受注番号    │受注数     │
 │取引先コード(R) |        ├┼───<│明細行番号   │        │
 │        │        │     │商品番号(R)   │        │
 │        │        │     │        │        │
 │        │        │     │         │        │
 └────────┴────────┘     └────────┴────────┘
 このような記法になる理由は、かつて、「反 コンピュータ 的断章」 のなかで述べた。「HDR-DTL」 は、関数の クラス なので、TM の 「関係文法」 のなかで扱うことができなかったので、「データ の多値」 として、べつの--言い換えれば、「例外」 として--扱うことにした次第である。
 TM は、「論考」 を出版したあとで、以下の体系として整えられてきた。

 (1) 個体の認知
 (2) 個体の性質・関係の性質
 (3) 関係の文法
 (4) データ の周延
 (5) データ の多値 (「AND 関係(HDR-DTL)」 および 「OR 関係 (多義)」)

 





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