2005年 1月 1日 作成 | 「文献編第14章 (ゲーデル を読むために)」 を読む | >> 目次 (作成日順) |
2007年10月 1日 更新 |
ゲーデル 氏の 「不完全定理」 に関して、通俗的なまとめ (あいまいな、あるいは、いいかげんな まとめ) が、出回っているようです。曰く、「人間の思考は、不完全である」 とか、「人間は、コンピュータ に比べて、すぐれている」 とか。 しかし、ゲーデル 氏は、論文のなかで、そういうことは、一切、言及していない。 小生は、ゲーデル 氏の論文を読んだが、T字形 ER手法は、ゲーデル 氏の論文を、直接に参照していない。小生が、ゲーデル 氏の論文を読んだ理由は、以下の 2点にある。
(1) 無矛盾性と完全性に関する考えかたを理解する。 (1) のみを目的とするのなら、数学史を学習して、数学史のなかで、「無矛盾性と完全性」 に関する思想の流れを理解して--カントール 氏の集合論のなかに起こった パラドックス、ヒルベルト 氏が提示した 「(無矛盾性を主眼とする) メタ 数学」、ラッセル 氏が提示した 「タイプ 理論」 および ツェルメロ 氏が提示した 「セット 概念 (ZF の公理系)」 を理解して--、「(述語論理に関する) 完全性定理」 のなかで使われた証明法と 「(算術体系に関する) 不完全性定理」 のなかで使われた証明法を、おおまかに知っていれば良い。 集合論や タイプ 理論を知らなければ、ゲーデル 氏の論文を読むことはできない。集合論や タイプ 理論を学習していないか、あるいは、学習しているけれど、ゲーデル 氏の論文を、直接に読みたいと思わない人たちは、以下の入門書を読んで、ゲーデル 氏が証明したことを、おおまかに理解しておけば良い--それ以上の学習をしなくても良い、と思う。
● ゲーデル の謎を解く、林 晋、岩波科学 ライブラリー、岩波書店
集合論や タイプ 理論に関して、そうとうな知識がある人たち (中級) は、以下の書物を読むことをお薦めします。
● 不完全性定理 (たのしい すうがく 2)、野崎昭弘、日本評論社 以前に紹介した集合論の書物を読んでいれば、野崎氏の書物を、まず、読むことをお薦めします。野崎氏の書物を読んだあとで、前原氏と廣瀬氏・横田氏の書物を、精読してください。なお、廣瀬氏・横田氏の書物には、付録として、完全性定理と不完全性定理の、それぞれ、翻訳が収録されています。 以上の書物を読んで、数学基礎論に対して興味を抱いたなら、ゲーデル 氏とは違う証明法を提示した タルスキー 氏の考えかたや、ゲーデル 氏の証明法が公にされた以後の論点を、学習すれば良いでしょう。以下の 2冊を、お薦めします--ただし、上述した中級向けの 3冊 (野崎氏、前原氏、廣瀬氏・横田氏) を読んでいることが前提です。
● ゲーデル の不完全性定理、レイモンド・スマリヤン 作、高橋昌一郎 訳、丸善 なお、ゲーデル 氏の論文は、構文論と意味論の 2つの観点から 「解釈」 できるので、構文論と意味論に関して学習してください。意味論に関しては、丁寧に学習するためには、タルスキー 氏の論文や カルナップ 氏の書物を読まなければならないのですが、まず、以下の書物を読んで、意味論の考えかたを、おおまかに理解してください。 ● 現代真理論の系譜 (ゲーデル、タルスキ から クリプキ へ)、山岡謁郎、海鳴社 「論理 データベース 論考」 のなかには、ほかにも、参考文献を記載していますが、上述した書物を読んでいれば、ゲーデル 氏の考えかたを理解することは、まず、大丈夫でしょう。 □ |
[ 補遺 ] (2007年10月 1日)
私は、ウィトゲンシュタイン 氏の哲学を、まず、学習して--私は、19才のときから いまに至るまで、かれの著作を愛読していますが--、40才になってから、ゲーデル 氏の論文を読みました。いまでは、ウィトゲンシュタイン 氏の哲学と ゲーデル 氏の ロジック は、私にとって、仕事 (の考えかた・技術) の根本になっています。 ふたりの (ウィトゲンシュタイン 氏と ゲーデル 氏の) 思想は、そうとうに違っていますし、対立する点もあるのですが、ふたりとも、20世紀の哲学・論理学・数学に多大な影響を与えたそうです--ちなみに、ふたりに対する 「後世の評価」 は、通俗的に言えば、ウィトゲンシュタイン 氏は 「現代の ソクラテス」 と云われ、ゲーデル 氏は 「アリストテレス 以後、最大の ロジシャン」 と云われています。 ウィトゲンシュタイン 氏は、「すべての (および、無限)」 という概念を認めていなかったし、「数学者とは、発明家であって、発見者ではない」 とも言っていて、「反 プラトン 主義」 を標榜していましたが、いっぽう、ゲーデル 氏は、「数学的な存在は、実存する」 という 「プラトン 主義」 を信奉していました。数学者から観れば、ウィトゲンシュタイン 氏の 「有限主義」 は認められないでしょうね。もし、ウィトゲンシュタイン 氏が、いま、生きていたら、現代数学の技術のひとつである ウルトラ・プロダクト を どう観るかしら。
ウィトゲンシュタイン 氏の哲学では、前期哲学は、「技術」--たとえば、真理値表とか-- を示しているのですが、後期哲学は、「なんらかの 『構成された』 ソリューション」 を示していません。勿論、かれは、「蝿取り壷に陥った蝿」 を救うための 哲学的 ソリューション を示していて、かれの哲学は、「治癒の哲学」 とも云われていますが、ひとつの証明式のように構成された技術ではない。かれの著作 「哲学探究」 (後期哲学) を初めて読むひとは、「哲学探究」 が、アフォリズム のような文を羅列して、意見を 「構成」 していないことに対して苛立つでしょうね、きっと。 ゲーデル 氏は、いわゆる 「不完全性定理」 として、「適当な条件の下で構成された--言い換えれば、算術化された--無矛盾な形式的体系には、かならず、その体系のなかで、『決定不能な』 命題が存在する」 ことを証明しました。つまり、真とも偽とも証明されないような命題が存在するのです。 タルスキー 氏は、「『真理』 は、ひとつの言語体系のなかで定義できないので、ほかの言語として--『対象言語』 に対する言語として、クラス 算のような--『メタ 言語』 を導入する」 ことを示しました。ラッセル 氏流の タイプ理論で云うなら、タイプ n の充足関係は、タイプ 「n − 1」 が対象になるということです。 ゲーデル 氏は、「不完全性定理」 を証明する前に、「完全性定理」 を証明しています。「完全性定理」 は、「無矛盾な第一階理論は モデル をもつ」 という証明です。「モデル が存在する」 ということは、「証明可能性」 のことです。そして、ゲーデル 氏は、(「完全性定理」 で導入した) 「証明可能性」 を使って、「不完全性定理」 を証明しました。すなわち、純粋に数学的な接近法を使ったのですが、前述した (タルスキー 氏の) 「定義不可能性」--「証明可能性」 とは逆の着想になるのでしょうが--を使って、「不完全性定理 = 定義不可能性 + 算術化された完全性定理」 として証明することもできるそうです。通俗的に言えば、「不完全性定理 = パラドックス + 算術化された完全性定理」 ということです。ウィトゲンシュタイン 氏は、ゲーデル 氏の 「不完全性定理」 に関して、この意味論的な着想に気づいていたようです。ウィトゲンシュタイン 氏は、「不完全性定理」 を 「無意味」 としています。ゲーデル 氏は、(「不完全性定理」 に対する ウィトゲンシュタイン 氏の 意見に関してして、) 以下のように言っています。
かれ (ウィトゲンシュタイン) は、この定理を一種の論理的 パラドックス と解釈していますが、 ウィトゲンシュタイン 氏の使った 「無意味」 という用語が、原語では、どういう語であるかを調べなければならないのですが--「無意味」 という意味が、「現実的事態と対応する語-言語ではない」 という意味なのかどうかを調べなければならないのですが (ただし、私は調べていない)--、かれの著作 「数学の基礎」 には、以下の文が綴られています。
いかに奇妙に思われようとも、ゲーデル の不完全性定理に関する私の課題は、ただ単に、 ウィトゲンシュタイン 氏は、「言語 ゲーム」 のなかで、証明に関して、以下の考えかたをもっていました。
(1) 物理的対応と数学的対応との違いは、実験と計算の違いと同型である。 ウィトゲンシュタイン 氏は、あきらかに、「不完全性定理」 を 「言語 ゲーム」 のなかで見極めようとしていますね。 さて、本 エッセー のなかで記載した書物を読んで、ゲーデル 氏の 「完全性定理」 「不完全性定理」 を、もっと、学習したいと思ったならば、以下の書物を読んで下さい。 ● 「ゲーデル と 20世紀の論理学 (1 〜 4)」、田中一之 編、東京大学出版会。 2006年・2007年に出版された 4分冊です。私は、(1) から (3) を読みましたが、まだ、(4) を購入していない。 |
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