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本書の狙い |
● 以下の文は、本書の「はしがき」から転載しました。
「数学が好きだ」 という人たちにとって本書は無用でしょうね。というのは、本書は、「数学が嫌い」 という人たちのために執筆しました。「数学が嫌い」 だけれども、システム・エンジニア として、ユーザ の事業過程・管理過程を対象にして 「事業を 『正確に』 記述した」 モデル を作らなければならない仕事をしている人たちのために本書を執筆しました。本書を読めば、「数学が嫌い」 だという人たちでも、「モデル」 の根底にある考えかたを習得できるようにしたつもりです。 というのは、私自身が数学を苦手で文系を選んだのですが、さながら偶然で、システム・エンジニア という仕事に従事することになって、ユーザ の事業を モデル 化する仕事に就きました。ユーザ の事業を 「正確に」 記述するためには、どうしても、モデル の技術を学習しなければならなかった次第です。しかし、数学を正式に学習してこなかった私にとって、モデル の技術を学習するために味わった苦労といったら、数学を好きだという人たちには想像もできないほどの苦労でした。だから、私は、数学の学習で苦しんでいる人たちに対して、人一倍に同情を感じています。「数学が嫌いだ」 という人たちが──しかし、仕事で モデル を学習しなければならない人たちが──、私の味わった同じ苦労をしてほしくないという思いが本書を執筆した理由です。 私は、数学基礎論を学習するために多数の専門書を読んできましたが、それらのなかで、以下の書物が とても役に立ちました。 「数の体系と超準 モデル」、田中一之 著、裳華房 田中氏は、著作の 「はしがき」 のなかで、以下のように綴っていらっしゃいます。
また 10数年前から、基礎論の研究活動が、計算機科学への応用と 私も同じ感を抱いています──「野心もあった」 という同感ではなくて、「数学基礎論の抽象論と計算機科学の応用知識に二極化されて、コア となる数学の基礎との関わりが希薄になった」 という同感です。たとえば、システム・エンジニア が モデル を学習するために数学基礎論の書物を読んでも、数学基礎論が専門分化されていて、たぶん、書かれている中身を理解できない──あるいは、用語すら理解できない──のではないでしょうか。そうなれば、専門書を読みたいのだけれども、専門書を手にしたとたんに読むことを諦めてしまうでしょうね。そこで、本書は、数学基礎論の書物を読みたいのだけれど、数学の学習を正規に修めてこなかった人たちのために、「専門書に辿り着くための梯子」 として執筆しました。 本書を執筆する当初に、私は、「数式を できるだけ使わないで モデル の考えかたを説明したい」 と思っていたのですが、当初の思いを変えて、基本的な数式を豊富に盛り込みました。というのは、数学が嫌いで数学を学習してこなかった人たちが、数式を使わないで、数学の考えかたを理解できるとしたら、それこそ嘘になるでしょう。もし、読者が本書を読んで、モデル の考えかたを 「要するに」 「簡単に」 習得できると期待されたら、当てがはずれるかもしれない。でも、本書に綴られていることを丁寧に読んでいただければ、モデル を本格的に学習するための入口に立つことは保証します。富士山の登山に喩えれば、五合目まで自家用車で登るようにするのが本書の役割です。 そして、ここ数年、コンピュータ 業界の或る領域において、単なる 「画法 (diagramming)」 が 「モデル」 とよばれていることに対する私の抵抗として本書を綴りました。本書では、数学基礎論の技術を説明するいっぽうで、数学基礎論・哲学が、事業過程・管理過程を対象にして構成される モデル のなかで、どのようにして使われるのかという点を いくつかの例で示しました。 本書の挿絵を 「なかがわ じゅん」 さん (美術大学卒、「TMの会」 会員) に描いていただきました。挿絵は、それぞれの章の まとめを一瞥で脳裏に刻むように お願いしました。私の拙い文が挿絵で補われることを祈っています。 私は、システム・エンジニア であって、数学者でもなければ哲学者でもありません。そのために、本書で説明した数学的概念・哲学的概念に関して思い違いがあるかもしれないので、読者の ご指摘をいただければ幸いです。 なお、最後になりましたが、本書の出版を快く承諾してくださった株式会社 ソフト・リサーチ・センター の木村雄二郎さんに心から感謝を申し上げます。また、草稿を管理していただいた宇野牧紀さん、編集・校正を担当していただいた鈴木富美子さんに感謝を申し上げます。そして、家族の辛抱と支援に感謝したい。
モデル が モデル として使われることを祈って |
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