2002年 3月17日 作成 量化の練習問題 (その 1) >> 目次 (テーマごと)
2007年 5月16日 補遺  



 さて、今回は、量化の練習問題をやってみましょう。

 まず、てはじめに、以下の問題 (全称の存在化) からやってみましょう。

 (1) 全称の ∀x [p(x) ⇒ q(x)] を (¬ と ∧ を使って) 存在化しなさい

 存在化するということは 「∃」 を使うということだし、¬ を使うということは、全称 「∀」 を ¬ を使って記述すればよいのだから、全称は存在化の否定である (∀x ≡ ¬∃x) ことを思い出せばよい。
 とすれば、(1) は、以下のように変換できる。

 ∀x [p(x) ⇒ q(x)] ≡ ¬∃x ¬[p(x) ⇒ q(x)].

 さて、ここで、「p ⇒ q ≡ ¬p∨q」 であることを思い出してほしい。
 したがって、¬∃x ¬[p(x) ⇒ q(x)] ≡ ¬∃x ¬[¬p(x)∨q(x)].

 したがって、¬∃x ¬[¬p(x)∨q(x)] ≡ ¬∃x [p(x)∧¬p(x)].

 では、次に、以下の問題 (全称の存在化) をやってみましょう。

 (2) ¬{∀x [p(x) ⇒ ¬q(x)]} を (∧ を使って) 存在化しなさい

 ¬[∀xp(x)] ≡ ∃x¬p(x) だから、¬{∀x[p(x) ⇒ ¬q(x)]} は ∃x ¬[p(x) ⇒ ¬q(x)] となる。
 「p ⇒ q ≡ ¬p∨q」 だから、
 ∃x ¬[p(x) ⇒ ¬q(x)] ≡ ∃x ¬[¬p(x)∨¬q(x)].

 したがって、∃x ¬[¬p(x)∨¬q(x)] ≡ ∃x [p(x)∧q(x)].

 今度は、「存在の全称化」 の問題をやってみましょう。

 (3) ¬{∃x [p(x)∧q(x)] を (⇒ を使って)全称化しなさい

 ¬[∃xp(x)] ≡ ∀x ¬p(x) だから、¬{∃x [p(x)∧q(x)] は ∀x{¬[p(x)∧q(x)] となる。
 ∀x{¬[p(x)∧q(x)] ≡ ∀x [¬p(x)∨¬q(x)].
 「p ⇒ q ≡ ¬p∨q」 だから、
 ∀x [¬p(x)∨¬q(x)] ≡ ∀x [p(x) ⇒ ¬q(x)].

 さて、記号の操作に慣れてきましたか。

 今度は、日常言語の文章を記号化してみましょう。

 (4) 以下の文章を記号化しなさい。
   「すべての SE は記号論理学を体得している。」

 記号化するためには、以下の手順を考えればよいでしょう。

 (4)-1. まず、外延 (集合) を記号化することを考えてみるのが コツ です。
  この文章が表現している外延 (集合) は、以下の 2つある。
  - SE である人々の外延 (集合)
  - 記号論理学を体得している人々の外延 (集合)

 (4)-2. そこで、まず、以上の 2つの外延 (集合) を以下のように記号化する。
  - SE である人々の外延 (集合) を p(x) とする。
  - 記号論理学を体得している人々の外延 (集合) を q(x) とする。

 (4)-3. そして、「SE は記号論理学を体得している」 という表現を、記号化しやすいように変形する。
  文章の変形は、前述の 2つの外延と論理定項 (∧、∨、⇒、¬) を使うようにすればよい。
  2つの集合の関係は、まず、「包摂・被包摂」 関係 (⊃、⇒) を考えてみるのが コツ である。
  「包摂・被包摂」 関係が成立しないのであれば、「並立 (∩、∧)」 あるいは 「排他 (∪、∨)」 を考えればよい。

  「SE は記号論理学を体得している」 は 「SE である人々ならば記号論理学を体得している人々である」となる。
  したがって、記号を使って記述すれば、以下のようになる。
    p(x) ⇒ q(x).

  さらに、「すべての」 という全称が使われているので、記号を使って記述すれば、以下のようになる。
    ∀x [p(x) ⇒ q(x)].

  ついでに、この練習問題を使って、「全称の存在化」 をやってみましょう。
  ∀x [p(x) ⇒ q(x)] の否定形を作ってください

 ¬{∀x [p(x) ⇒ q(x)]} ≡ ∃x ¬[p(x) ⇒ q(x)] ≡ ∃¬[¬p(x)∨q(x)] ≡ ∃x [p(x)∧¬q(x)].

 できましたか。では、記号列の ∃x [p(x)∧¬q(x)] を文章に直してみましょう
 p(x) は 「SE である人々」 を記述する内包 (論理式) です。
 q(x) は 「記号論理学を体得している人々」 を記述する内包 (論理式) です。
 したがって、¬q(x) は 「記号論理学を体得していない人々」 を記述する内包 (意味) です。
 したがって、記号列は、以下のように読むことができる。
 「SE であり、かつ、記号論理学を体得していない人々が存在する」。

 この (論理式臭い) 文章を普通の文章にすれば、以下のようになる。
 「SE であるが、記号論理学を知らない人々が存在する。」

 次回も、量化の練習問題をやってみましょう。
 次回は、「関係の論理」 の量化の練習問題を扱ってみます (量化記号を 2つ使います)。□

 



[ 補遺 ] (2007年 5月16日)

 われわれ 「数学の シロート」 が、こういう 「量化の数式」 を演算することは、ふだん、まず、ないと思うのですが、少なくとも、「∀」 と 「∃」 を つねに意識するようにしたいですね。ふだんの生活のなかで、「みんな そう言っている」 というような言いかたを聞くたびに、私は、うんざりします。そういう言いかたに対しては、ときどき、皮肉を込めて、「『みんな』 というのは、10人ですか、100人ですか、一億人ですか」 と応えることもあります。そういうふうに応えると、「屁理屈を言う」 というふうに非難されますが、私にしてみれば、いっきょに普遍化してしまう 「ずさんな」 思考のほうが怖ろしいと思います。

 さて、「∀」 と 「∃」 は、TM でも、entity 間の射で検討項目としています。セット (集合) のあいだで 「1-対-1」 の対応を考えたときに、(メンバーのあいだに起こる関係が) 「全射か単射か双射か」 という点は検討されなければならない。

 ┌─────────────────┐       ┌─────────────────┐
 │       従業員      R│       │       部門       R│
 ├────────┬────────┤       ├────────┬────────┤
 │従業員番号   │従業員名称   │       │部門コード   │部門名称    │
 │        │        │>──○─○┼┤        │        │
 │        │        │   │   │        │        │
 │        │        │   │   │        │        │
 │        │        │   │   │         │        │
 └────────┴────────┘   │   └────────┴────────┘
                       │
                       │
              ┌────────┴────────┐
              │   従業員. 部門. 対照表    │
              ├────────┬────────┤
              │従業員番号(R)  │        │
              │部門コード(R)  │        │
              │        │        │
              └────────┴────────┘

 この例では、全射ですが、「部門に配属されていない従業員」 がいることを示しています。すなわち、「リレーションシップ の ゼロ の cardinality」 が その事態を示しています。したがって、対照表として記述される外延を正確に記述すれば、以下の 「構造」 になります。

 ┌─────────────────┐       ┌─────────────────┐
 │       従業員      R│       │       部門       R│
 ├────────┬────────┤       ├────────┬────────┤
 │従業員番号   │従業員名称   │       │部門コード   │部門名称    │
 │        │        │>──○─○┼┤        │        │
 │        │        │   │   │        │        │
 │        │        │   │   │        │        │
 │        │        │   │   │         │        │
 └────────┴────────┘   │   └────────┴────────┘
                       │
                       │
              ┌────────┴────────┐
              │   従業員. 部門. 対照表    │
              ├────────┬────────┤
              │従業員番号(R)  │        │
              │部門コード(R)  │        │
              │        │        │
              └────────┼────────┘
                       |
                       × null (部門コード)
                       |
           ┌───────────┴───────────┐
           |                       |
  ┌────────┴────────┐     ┌────────┴────────┐
  │       配 属       │     │       非配属       │
  ├────────┬────────┤     ├────────┬────────┤
  │従業員番号(R)  │        │     │従業員番号(R)  │        │
  │部門コード(R)  │        │     │        │        │
  │        │        │     │        │        │
  │        │        │     │        │        │
  │        │        │     │         │        │
  └────────┴────────┘     └────────┴────────┘

 さらに、entity のあいだの対応関係では、「多値」 を検討しなければならない。たとえば、以下を考えてみます。

 ┌─────────────────┐     ┌─────────────────┐
 │       営業所      R│     │       契 約      E│
 ├────────┬────────┤     ├────────┬────────┤
 │営業所コード  │営業所名称   │     │契約書番号   │契約日     │
 │        │        ├┼───<│営業所コード(R) │        │
 │        │        │     │        │        │
 │        │        │     │        │        │
 │        │        │     │         │        │
 └────────┴────────┘     └────────┴────────┘

 この例では、「すべての」 契約書は、かならず、どれかの営業所に対応しています。
 さて、対応性を検討するのであれば、当然ながら、以下の事態が起こりうるのかどうかを調べなければならないでしょう。

 ┌─────────────────┐     ┌─────────────────┐
 │       営業所      R│     │       契 約      E│
 ├────────┬────────┤     ├────────┬────────┤
 │営業所コード  │営業所名称   │     │契約書番号   │契約日     │
 │        │        │>───<│営業所コード(R) │        │
 │        │        │     │        │        │
 │        │        │     │        │        │
 │        │        │     │         │        │
 └────────┴────────┘     └────────┴────────┘

 すなわち、1つの契約に対して 「複数の」 営業所が関与することがあるかどうかを検討しなければならない。もし、そういう事態が起こるのであれば、「構造」 は、「多値」 を考慮して、以下のようになります。

 ┌─────────────────┐     ┌─────────────────┐
 │       営業所      R│     │       契 約      E│
 ├────────┬────────┤     ├────────┬────────┤
 │営業所コード  │営業所名称   │     │契約書番号   │契約日     │
 │        │        │>───<│        │        │
 │        │        │     │        │        │
 │        │        │     │        │        │
 │        │        │     │         │        │
 └────────┴────────┘     └────────┼────────┘
                                  ┼
                                  │
                                  ∧
                         ┌─────────────────┐
                         │    契約. 営業所種別   MA│
                         ├────────┬────────┤
                         │契約書番号(R)  │        │
                         │営業所コード(R) │        │
                         │        │        │
                         │        │        │
                         │         │        │
                         └────────┴────────┘

 ちなみに、図中、「MA」 は、「Multi-value AND」 の意味です。




  << もどる ベーシックス すすむ >>
  数学基礎論